アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
Ⅴ
-
黒い車に乗せられた俺はいつものように窓の外を見ていた。薫がそれを横目で見ておかしそうに笑う。
「外、何か見えるの?」
「何も。いつもと変わらねえよ」
「雪人、バイトなんてやめてしまってもいいのに。僕が支えると言ってるんだから」
「黙れ」
コイツは何も分かってない。俺はそれに腹が立っていた。
オメガなんてアルファ様に養われてろってか。アルファがいなきゃ生きられないなんて絶対に御免だ。
「前にも言ったよな。俺はオメガの前に人間だって。ただでさえオメガは就職率が低いんだよ」
「だから、僕が不自由させないって何度も言ってるけどな」
「俺は一人でも生きられるようになりたいんだよ」
薫はいつも、俺の答えに笑っていた。そして冗談紛れに俺の頬にキスをする。
やめろと言っても聞かない。コイツはアメリカ辺りででも育ったんじゃねえのか。
「そんな不機嫌な顔じゃなくて、笑った顔も見たいな」
「あんたがいなくなったら考える」
「兄さんに向けてなら、君は笑うくせに」
ドキッとした。その通りだ、だって俺は織部の事を愛しているから。
昨日見たディスクの織部の顔を思い出す。何だか顔が熱くなってきた。
「……本当、雪人は兄さんが好きだね」
「当たり前だろ。俺の運命の相手なんだから」
「まあ、ね」
その時、外を見ていて気付いた。家の方に向かってない。知らない、見た事ない場所になっている。
慌てて薫を見ると、薫は「してやったり」と言わんばかりに楽しそうな顔をしていた。
「やっと気付いた?」
「どこに連れて行くんだよ!?」
「……僕の運命の相手の所だよ」
薫の顔が恐ろしく無表情になった。運命の相手、といえば大抵嬉しそうな顔をするだろうに。
今まで見た事もないような顔で、思わず体を後ろに退いた。それに気付いた薫がいつもの穏やかでムカつくほどさわやかな笑顔に戻った。
「ごめん、怖かった?雪人を怯えさせるつもりはなかったんだけどな」
「なんて、顔……してんだよ……あんた……」
「まあ、事情があってね。もう少しで着くから」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
19 / 73