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Ⅷ
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「なるほど。あんたが返せなかった理由は納得した」
「それは良かった。言うつもりはなかったんだけどね。思った通り、雪人くんは顔色が悪いし」
椎名さんに言われて俺の様子に気付いた一木が俺の手に触れた。
一木の手があったかくて、少しだけ不安が和らいだ。
「でも、あんたには織部薫サンがいる。仲が悪いみたいだけど」
「まあね。雪人くんから聞いたのかな?私達は仲が悪いけど、心底嫌ってる訳じゃないよ。嫌っていたら、いくら「運命の相手」でもお断りだね」
俺は椎名さんを見た。この人は、俺をどう思っていたんだろうか。
やっぱり、嫌だったんじゃないだろうか。初恋の人を、横から持っていく俺が……。
椎名さんは俺の視線に気づいて笑って見せた。
「雪人くん。私は君の事を疑いはしたけれど、嫌いではないよ。むしろ、君がお兄さんの運命の相手で良かったと思ってる」
「え……」
「願わくば、もう少し早く見付かってほしかったけれどね」
俺の頭を撫でた椎名さんの手は、少しだけ震えていた。それで、全部虚勢なんだと気付いた。
椎名さんは俺に嘘を吐いている。でも、この人は俺を気遣って織部への想いを過去の物にしようとしている。
気付かないふりをしようと思った。この人の為に。
「で、何で返そうと思った?」
「薫が「雪人くんの様子がおかしい」と言ってたからね。それから、時折何かを聞きたそうにしているけれど話してくれないと。何かを探しているようだけど、ってね。
この指輪の存在を知ったからかなあと思ってさ。だから返す事にしたの」
受け取ってくれるよね?という椎名さんに、俺は頷いた。この人の精一杯を受け取りたいと思った。
「にしても、君さっき私の事嫌いだって言ったよね?」
「言ったね」
「私も君が嫌いだな。類は友を呼ぶと言うけれど、何で君が雪人くんの友達をやってるのか信じられないよ」
「別にあんたに信じてもらわなくていいし」
一木は随分椎名さんが嫌いみたいだ。もう止めても無駄らしい様子に頭を抱えたくなった。
にしても……一木の無神経さを嫌う人はいるけれど、一木が誰かを嫌いだと言うのは初めて聞いた気がした。
今日の一木は、なんだか俺の知ってるいつもの一木ではなかった。
それに今日の事に一木は全く関係ないのに、気付けば一木が全て進めてくれていた。
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