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Ⅸ
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帰りは送る、と薫に押し切られて。岡本さんにお礼を言った後、車に乗った。
最近は忙しかったのか、薫には会っていない。久しぶりだった。
「雪人がいると思わなかったよ」
「……俺も、あんたが来ると思わなかった」
「僕はずっと、兄さんの誕生日に来ていたんだ。兄さんは誕生日には絶対何があってもチョコレートケーキを食べてたから」
「何それ、子供かよ。あの人らしい」
俺が笑うと、薫も笑っていた。「本当にその通りだね」と。
信号が赤になって停止する。薫は口を開いた。
「あの場所に来ていたって事は、大学はその近く?」
「あー……うん、そんなに遠くないんだとは思う」
「そう。なら、進学したら僕の所においで」
「は!?」
いきなりの提案に驚いた。どういう事だ、その前に椎名さんはどうするんだよ!?
一木にも距離が近すぎると言われたばかりなのに。
「む、無理だろ。あんた俳優だし、有名人じゃないか!」
「有名人だってプライベートはあるよ」
「巻き込まれるのは嫌だ!」
「僕が、雪人を危険な目に遭わせると思う?」
薫がちらと俺を見た。それはとても冷たい目で、椎名さんと最初に会った時のような目だった。
怖い。薫が、怖い。やっぱり薫はどこか怖い。織部とは大違いだ。
怖がっている俺に気付いたのか、薫はふっと表情を和らげた。
「僕は雪人を支えると言ったじゃないか。その為に傍に居てもらった方がいいと思うのは当たり前だろう?色々と助けてあげられるし」
「……それは、そう……なのか……?」
「そう。僕の所からなら、君の大学から近いよ?」
「俺……あんたの家、知らないけど」
「あれ?そうだっけ。マンションに住んでるんだけどさ」
一度おいで。そう言われて……俺は迷った。
薫の家に、行ってもいいのだろうか。それこそ、俺は薫の家族に疑われるんじゃないのか。
距離を誤ってはいけない。
オメガは、劣等種は……アルファを、優等種を惑わすと言われるのだから。
間違いは許されない。「これだからオメガは」だなんて言われたくない。
これまでも、これからも。絶対に。
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