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The wing which died surely turns into love
知らない男が、記憶と被る < Side Y
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手にしたバイト代で、佳梛を外食へと誘った。
「なぁ、なに食いたいんだよ?」
食が細い佳梛に、好きなものを食べさせようと思ったが、未だに何が好きなのかがはっきりしない。
洋食、和食、中華、イタリアン、はたまた、インドカレーに丼物屋。
色々な食べ物屋が並ぶ商店街を歩きながら問いかける俺に、佳梛は、んーと唸るだけ。
はぁっと小さく息を吐き、きょろきょろと瞳を彷徨わせながら、緩く足を進めていた。
ぐんっと擦れ違い様に、腕を掴まれた。
振り返った先には、オレンジ色の髪の男が立っていた。
何なのかと、訝しげな視線を向ける。
「結芽…? お前、結芽だろ?」
確かに、それは、俺の名だ。
でも、俺には、目の前の男が誰なのか、わからなかった。
不審がる俺に、男は、不思議そうな顔をする。
「オレ、佳梛。朝羽 佳梛っ」
くっと口角を上げ、嬉しそうに笑うオレンジの男。
「俺、美容師になったんだよね。こいつと店、持ってるんだ」
嬉しそうに隣に立つ男に、視線をちらりと送った。
隣に立っていたのは、長身長髪の男だった。
飄々としている男は、俺を牽制するような瞳を向けていた。
頭の中に、ぼんやりとする映像が、ちらちらと横切る。
まるでアルバムのページを捲るかのように、目の前の男が少しずつ若くなり、俺の記憶の佳梛と重なる……。
……でも、俺の横に立っているこいつは?
こいつが、佳梛…だろ?
ぐちゃぐちゃと掻き混ぜられたような脳内。
ズキン、ズキン、と頭が痛む。
頭の痛みに、左手でこめかみを押さえた。
佳梛だと名乗った目の前の男は、1枚の名刺を俺へと差し出した。
「ほら、そこの店。俺たちの……」
不思議そうにしながらも目の前の男は、店を指差した。
ちらりと向けた視線の先、飲食店の隙間に、1件の美容院らしき店。
何が何だかわからない俺は、険しい顔のままに、空いている右の手を、その名刺へと伸ばした。
男は、俺の右手を自分へと引き寄せる。
少し曲がった小指を摘まむように撫ぜた男は、くっと眉根を寄せた。
「ごめん。オレの、せいだよな…、ごめん」
顔を歪める俺に、目の前の男は、悔しそうに言葉を紡ぐ。
「……思い出したくない、…よな?」
悲しそうに瞳を伏せた男。
その姿が、記憶の奥底にある風景を呼び起こす。
『関係ないなら、出来るだろ。ほら、やれよ』
俺の右手が冷たいコンクリートに押しつけられる。
『違う、違うだろっ。俺たち…………っ』
叫ぶ俺の声を遮るように、俺の手の上に、固いコンクリート片が落とされた。
右手に感じる激痛に、見上げた先の顔………、は。
『佳梛っ……』
「佳梛……? 何で……?」
チカッと光った白い閃光に、目の前が暗闇に包まれる。
身体中の力が抜け、膝から崩れ落ちていった。
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