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第7話
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俺はもう逃げない。
元来た道を一人、人混みに逆らって足早に歩く。
一晩あの街で適当な所に泊まって、朝にホテルを出た。
改札に入って電車を乗り継いで数時間揺らされて辿り着く。
駅を降りると静かな町に朝焼けがちょうど顔を出した。雲を掻き分けて届く光はいつも見るより鮮明で網膜に焼き付いて。
生ぬるい風が肌にまとわりつく。
ここが、俺の生きた町だ。
*
ひたすら待っていた。
たまに通り過ぎる人の訝しげな視線を浴びる。きっと不審者に思われても仕方ないくらいにずっと同じ場所に座り込んで待っていた。
「何やってんだ…裕之」
馴染みのある声、けれど懐かしく聞こえる声に顔を上げる。
「インターホン押しても誰も出なかったから待ってたんだ」
自分の家へと帰ってきた親友はその前に蹲る俺を視界に入れると目を見張って固まる。そして露骨に顔を歪めた。
「二度と顔見せんなって言った筈だろ。…帰れ」
「っ待てよ…!」
門を開けて通り過ぎようとする親友の腕を掴む。瞬間激しく腕を振り払われ、キツく睨まれる。
「人を裏切っといて何のつもりだよ。……簡単に許されると思うな」
隠そうとしない嫌悪の目。
一瞬怯むけど、俺はもう逃げないと決めた。
「…お前に何も言わずに一樹と付き合ってたことは悪いとおもってる。本当に、ごめん。でも、」
その目に負けるもんかと、しっかり焦点を合わせた。
「でも俺は、一樹を好きになったことを後悔してない」
「お前、何言って…!」
強くなる口調に覆いかぶせるように続けた。
「俺、ずっと一生一人なんだって思ってた。誰にも愛されないまま、このまま死ぬんだって思ってた。男しか好きになれない自分を毎日のように自己嫌悪してきた。でもさ、一樹が教えてくれたんだ。俺は俺のままでいいんだって。こんな俺を、好きだって言ってくれた。純粋に愛してくれた」
苦い顔をして黙ったまま、ただじっと俺の話を聞く。
親友が今何を考えてるのか、何を思っているのかは分からない。
ただ話を聞いてくれていることに少しだけ嬉しくなって、涙が滲む。
もう一度俺のことを理解してくれたら、なんて大それたことは望まないけれど。
ただ、一樹だけは、愛する人だけは俺だって譲れない。
「…そんなのさ、大好きになるに決まってんじゃん。おれ、多分この先一生、一樹しか好きになれないよ。ごめんな。でも俺、一樹のこと諦めるつもりないから」
最後の一言を強く言い切って睨む勢いで親友を見つめ返す。
一瞬、驚いたように目を開いて、けれどすぐに睨み返された。
「ふざけるな。帰れ。…二度と来るな!」
今度こそ腕を強く振り払われる。
玄関へ消える背中に、声をぶつけた。
「また来るから!」
何度だって。
俺はもう、逃げない。
もう、迷わない。
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