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――ぞくりとした。
耳から吹き込まれた何かが俺の中を駆け巡って、這いずり回って、身体の奥で震えた。
単なる寒気なのか――身の危険なのか。
きっと、どっちもだ。
「ちけえ……!」
佐保との顔の近さに狼狽え、思わず座ったまま後ずさる。しかし佐保は優雅な猫のように、しゃなりしゃなり、その距離を簡単に埋めてしまった。
「おりはらくん、」
「っ、わ!」
肩を押され、俺は無条件に後ろに倒れていく。コンクリートにごつりと後頭部をぶつけた。
くらりとして、空と佐保に見下ろされた世界のだだっ広さに、少し言葉を失った。
焦点が佐保へと合う。
「いい眺め」
陰りを帯びた表情が、ぞっとするほど綺麗に、冷たく笑った。いつもの、あの、へらりと締まりのない笑顔はどこにもない。
――まるで獣だ。
おあずけを食らい、どうしようもなく飢えている獣の前に餌があったら。
あとはどうなるかなんて、容易に想像はついた。
「……俺はまずいぞ」
じっと佐保を見つめる。
佐保は呆けたように数回瞬きをしたあと、くすくすと心地よく耳朶を震わせる笑い声を漏らした。
「太ももとかおれ好みでおいしそうだけどね」
言うなり、太ももに手が伸ばされる。もぞもぞと衣服の上から撫であげられると、気持ちよさよりもくすぐったさの方に天秤が傾く。
「俺はお前を充足させる道具じゃない」
乱暴に足を動かして手を振り払う。腰に走る疼きに似た痛みを我慢しつつ、俺は佐保を押しのけて起き上がろうとした。
「――西永くんとはセックスしたのに?」
不服げに俺を責める声が落とされた。
佐保は上半身を起こしかけていた俺を乱暴に組み敷いて、再びコンクリートに縫いつける。
「った……」
「なんで西永くんはよくておれはだめなの?」
捕まれた手首が、熱い。
塞がれた唇から漏れるのは、劣情を孕んだ自分の喘ぎ声だった。
『俺だって受け入れてもらわねば、不公平というものだろう?』
されるがままに、手持ち無沙汰な俺は青い空を見つめる。
今になって――今だからか、西永のセリフが脳内再生され、強い響きを持って俺を糾弾した。
西永も、佐保も、自分勝手だ。
勝手に一人で思い込んで、先走って。俺のことなんかちっとも考慮に入れてない。ただの我が儘なガキだ。振り回されるこっちの身にもなれっての。
でも、その我が儘に気づかない振りをして、本気で拒むことなく己の保身のためだけに受け入れている俺は――例えるなら、最低な大人か?
自嘲。
それでも、俺は俺を変えられない。
「おれのものにならなくていいから、誰のものにもならないで……」
熱に浮いた佐保の吐息は、悲痛な響きとなって俺の心に突き刺さった。
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