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「っは、あ、ぁあ……!」
瞼の裏が白く弾ける。腰が震えて、砕けそうになる。溶けそうになる。
「さすがに薄くなってきたね」
葛西は口内に吐き出された白濁を舌で転がしていた。そうして、わざとらしく喉を鳴らして飲み込む。青臭いだけのそれを体内に取り込んで、満たされたような、恍惚とした表情を浮かべられる葛西の心情は理解できなかった。理解したくもなかった。
もう何度欲望を吐き出したか分からないというのに、自身は頭をもたげたまま、更なる快楽を期待するようにひくついていた。
際限なく沸き上がる劣情はとどまることを知らない。
それしか考えられなくなって、飲み込まれそうになって、自分が自分じゃなくなるような感覚に襲われて。
そうして、心底、怖くなった。
感じれば感じるほどに、罪悪感に似たものが背筋をかけあがった。
けど――こんな状況じゃ、罪悪感なんてものは、背徳的な行為を燃え上がらせるためのスパイスにすぎない。
後ろ暗いなにかがあればあるほど、それを忘れさせてくれるものに夢中になるしかないのだから。
目を背けて、逃げて、自己嫌悪。
その自己嫌悪からも目を背けて、逃げて、終わりのない鬼ごっこ。
身体の奥底でくすぶるわだかまりは、決して消えない。
幼少期の愛の渇きは、この先どうやったって満たせないだろう。過去の事実として、いつまでも俺の中に根づいたままだろう。
だから俺は、漠然とした不安の中で、かりそめの愛を求めてさ迷うしかないのかもしれない。
誰の愛も拒絶しないことで、足りない愛を補完して。
誰も愛さないことで、逃げて。
『だが、お前のそれは、周りにとって残酷以外のなにものでもない』
――だって、しょうがないだろ。
そうでもしないと、両親に愛されなかった自分の存在意義なんて、わからないんだから。
誰かに愛されるということは、その誰かに必要とされていることと同義だ。
だから、愛されたい。
必要とされたい。
俺を見てほしい。
認めてほしい。
逆に、誰かを手放しで愛することは、苦しいことばかりで、必ずしも報われるとは限らない。
だから、愛したくない。
傷つきたくない。
苦しみたくない。
もう、あんな思いはしたくない。
俺は俺を、変えられない。
だからこそ、そう簡単には、誰かを愛すことなんてできない。
でも、もし。
もし、俺からも愛することで、それ以上の愛をくれる人がいるのなら。
俺だけを愛し、肯定し、認めてくれる人がいるのなら。
そのとき、俺はその人を愛せるのだろうか。
俺は、変われるのだろうか――。
「愛してるよ、折原君」
葛西は、俺を愛していると言う。誰にも渡さないと言う。
俺も愛していると言ったら、コイツはもっと愛してくれるのだろうか。
あいしてる。
アイシテル。
愛してる。
数にして五文字。難しい発音ではない。
こんな簡単な言葉を言うだけで、今以上に満たされるのかもしれないと思うと、期待で胸が躍った。
――開きかけた口は、しかし押しとどまる。
声が聞こえたような気がしたのだ。
誰かを受け入れるなら、俺も受け入れろと言ったのは、誰だっけ。
自分のものにならなくていいから、誰のものにもなるなと言ったのは、誰だっけ。
どっちも自分勝手な言い分にしか聞こえないのに。
どうしてか、「愛してる」だなんて簡単な言葉を押しつけられるよりも、ずっとずっと、俺だけを愛していて、俺だけを必要としているような響きがあった。
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