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寵愛ごっこ:九郎side
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今まで、たったの一度も女を好きになったことがなかった。
理由は二、三ある。
第一に、抑圧されたあの家の中では、他者を気にかけ、思いやる心など育つ筈がなかったこと。
(常に親父に睨まれながら見えない兄の背を追わされていた)
第二に、自分が同性愛者であることに気付いてしまったこと。
(圧迫された反動で歪みに歪んだ結果としてなのか、元来のものなのかは未だに分からない。親父にバレて勘当される羽目になる)
第三に――他の誰でもない、明人を愛してしまったこと。
(弟を、愛してしまった)
明人は、俺にとって、唯一の心の拠り所だった。
あの家の中ではあいつだけが純粋だった。最も愛に飢えていた故に、痛ましいほど純粋に愛を求めていた。
あいつがどれだけ献身的な愛の献上をしても、父や母は、決して見返りを与えることはなかった。
いたいけな姿に心を打たれたのか、いつしか俺があいつを満たしたいと、あいつの望むものになりたいと思っていた。
愛を与えたいと思っていた。
日に日にがらんどうになっていく明人に、何かと言い訳をつけてキスをした。
その頃にはもう、俺は明人の望むものにはなれないのだと分かっていたから。
だから、せめて、快楽による救済くらいは与えたかった。
明人は快楽にめっぽう弱く、擬似的に心の満たされる感覚を得たのか、単に現実を忘れたいがためなのか――ひとたび唇を合わせれば、なかなか離そうとはしなかった。
赤い唇の隙間から零れる、年不相応な色気づいた声。その一方で、目が合えば、恥じらいながら伏せてみせる。いつだって儚げに震える睫毛から目が逸らせなかった。それから両手でそっと俺の首を抱き寄せ、か細い声で口づけをせがむのだ。
無意識に男を誘ってまで愛を得ようとする明人の姿に、ますます愛しさだけが込み上げた。
そうして、後にはどうしようもない劣情が漂った。
――そんな頃だ。
俺が行き付けのゲイバーに出入りしているところを親父に言及され、事務手続きでもするかのように勘当されたのは。
今となっては、勘当されてよかったとも思っている。
きっと、あのまま行けば、俺は最後まで手を出して、快楽によって明人を支配しようとしただろうから。
愛しいままに、すべてを奪い尽くそうとしただろうから。
これでよかったのだと。そう自分に言い聞かせて、誤魔化し続けて、何年か経った頃。
あろうことか、俺の職場にあたる私立野薔薇学園にて、俺と明人は再会してしまったのだ。
俺は真実を知ってなお、明人を手放そうとは思わなかった――思う筈もなかった。
だって俺は、ようやく明人の望むものになれたのだから。
(了)
――――――――――――
連載中に劣情ごっこを折原くん以外の視点で書いたらどうなるのかを試してみたSSをちょちょいと修正してあげてみまみた。かみまみた。シリアスほどふざけながら書いています。
タイトル含め、佐保の処理に困った末にじゃあ別のシリーズで九郎とくっつけるか!と無駄な奮起をした名残でもあります。
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