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「すいません! 遅れたっす!」
「遅れました」
ようやく到着した一年は、走ってでもきたのか、心なしか息があがっているように見える。
遅れた、と言ってもまだ五時まで数分はあるのだが、時間にうるさい委員長のせいで風紀委員は総じて十分前行動を半ば義務のようにしている。本当に遅刻しようものなら大変なことになるのは目に見えているからだ。
「次はねェからな」
脅すようにそう言う委員長だが、今回はちゃんと時間前に来られたからか、あまりおとがめはなかった。こちらとしても血の海を進んで見たいなどという人格破綻者ではないので助かる。精神的に。
「は、はいっす……!」
「分かってます」
極めて対照的な返事をする二人が席に着く。これで計六名の風紀委員が全員揃った。
委員長はその切れ長の瞳で俺たちを見据えると、静かに口を切った。
「最初、校内で“行為”に及ぶ奴らが増えてやがる。放課後の空き教室や、授業をサボって屋上で、とかな」
恐喝や暴行や喫煙といったものが、過去の取り締まりで最近では滅多に発生しないことを考えれば――“行為”というのはおそらくセックスのことだろう。
授業サボってまでケツを掘ったり掘られたりしたいなんて、校内で盛るヤツらの気が知れねえ。若さがそうさせるのかねえ。ジジ臭い思考に合掌。性欲が薄いだけだ。
「そりゃあ由々しい事態ですね」
ホモ共のセックスに興味はないのでとりあえず適当に相槌を打つ。
「ああ」委員長が忌々しげに舌を打つ。「俺を舐めてやがる」
……あ、ソッチですか。
委員長が熱血漢なワケがなかった。この人はただ、自分が支配している場を乱されるのが嫌なだけで、やれ校則違反だのやれリア充爆発だのといった感情などは持ち合わせてはいない。
「つーワケで、今日から風紀委員が放課後の見回りをすることになった。授業中は手の空いている先生方、主に保健の先生が見回ってくれるそうだ」
あの人が積極的に動くなんて、と俺は委員長の言葉に絶句した。
押し付けられた仕事は押し付け返すほどしたたかな人だ。きっと見回ることで何かしらの利益が生まれることに気付いたのだろう。そうでなければおかしいし、もし善意や責任感で動いていたとすれば――すごく、すごく気持ち悪い。ただの別人だ。
「……どうかしたのか、折原」
「いや、ちょっと考え事……」
西永に心配されるとは、相当変な顔をしていたに違いない。今は目の前の案件に集中しなければ、と思ったところで目の前の案件も案件だった。既に軽く精神がやられている。
「見回りは日替わりの当番制で、俺と西永、春野と高宮、折原と来栖という二人一組のペアに別れて行う」
何気なく来栖に目を遣れば、「一緒っすね!」笑顔でぶんぶんと手を振られた。犬の耳と尻尾が見える。どんな幻覚だよ。
「どうせなら高宮の方がよかったな」
よく喋る来栖の相手をするのは疲れてしょうがない。沈黙は気にならない派の俺は口数の少ない高宮の方が一緒にいて気が楽というものだ。
「なんでっすか! 高宮のどこがいいって言うんすか! こんなヤツの! どこが!」
「先輩はお前ではなく俺を選んだということだ」
「折原センパイはオレと一緒にいるとムラムラしてしょうがないから仕方なくお前の名を口にしただけだから。思い上がんないでくれるかなあ」
「いや、お前が思い上がるなよ」
この二人はめっぽう仲が悪い。
“余程のことがなければ”仲良くなるはずの関係性が拗れた理由は知らないが、大方性質的な問題だろうと思う。
口論が絶えないこの二人を仲裁するのはいつしか俺の役目となっていた。ちなみに委員長公認という恐ろしさを兼ね備えている。黙らせられなきゃ俺が殺されるだけだ。
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