アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
16
-
今日の放課後の見回りは委員長と西永で行うというメールが来た。
仕事がないと一気に暇人と化す俺。これから何をしようかと思案するが、特にこれといってしたいこともしなければならないこともなかった。
今日は早々に寮に戻るかなと思いつつ、机に突っ伏したのがいけなかった。
「……んう」
違和感に身を捩る。
窮屈な体勢に息苦しさを感じて目を覚ますと、目の前には茶色が広がっていた。じめじめと籠ったような木の香りでそれが机だと認識すると同時に、自分が教室ですっかり眠りこけてしまったことを察した。
「やべ」
「うわっ」
身を起こすと同時に聞こえた焦ったような声。首を傾げつつそちらに向けば、「なんだ、葛西か」クラス委員長の葛西がいた。葛西とは、クラス委員長と風紀委員という立場上、学校行事などでたまに会話をすることがあった。
葛西は眉尻を下げながら、申し訳なさそうな表情をして俺を見る。
「もうすぐ下校時刻だから起こしたんだけど……」
「マジ、もうそんな時間?」
教室の時計を見れば、時刻は7時近かった。寝過ごして見回りの警備員に見つかっていたら教師に通報されるところだった。そんなことになれば黙っていないのが委員長で、一番恐ろしいのも委員長だ。
葛西には感謝してもしきれない。
「ありがとうな」
「ううん、本当は起こしたくなかったんだけど……」
「え?」
「……あ、えっと、折原くん、すごく気持ちよさそうな顔で寝てたから……」
人に寝顔を見られるとは不覚だった。もう教室では寝ない。保健室でも寝ない。そう心に決めて、俺は鞄を手に取る。
「じゃあな、葛西。助かったわ」
「え、あ、うん。ばいばい……」
葛西に軽く手を振る。教室を出て、寮への近道を通るために、玄関ではなく特別棟の出入り口を目指す。寮は校舎の裏側にあるため、こちら側から出た方が断然近いのだ。鍵は警備員さんがかけてくれるだろう――そんな甘えた思考が産み出した近道である。知っているのも使うのも俺くらいで、まだ他の奴にはバレていない。
特別棟を歩いていると、不自然に戸が開いている教室があった。電気はついていない。普段は特に鍵をかけない部屋だが、せめて戸くらいはきっちり閉めるべきだろうと生来の真面目さから思い立ち、教室に歩み寄る。
戸に備え付けられた正方形の窓から教室内を見渡すと、「――っ!」床に、誰かが転がっているのが見えた。
佐保だ。
俺の直感がそう告げた。
急いで歩み寄ると、いつも以上に生気のない、青白い顔で佐保が倒れていた。伏せられた瞼はピクリとも動かず、睫毛だけが活動的に上を向いていた。胸がわずかに上下しているのを見て、どうやら寝ているか気絶しているだけらしいと安堵する。乱れた衣服からするに――そういう事情のあとなんだろう。
もしかしたら、例の件の渦中の人物は佐保なのかもしれないなと思った。しかし今は思うだけだ。
こんな格好で冷たい床に横たわっていれば風邪を引くのは目に見えているし、もう少しで完全下校時刻を迎えてしまう。
俺は友人を見捨てるほど薄情な人間ではない、と思いたい。
「おい、佐保。起きろ」
何はともあれ、佐保の意識を浮上させなければ。コレを背負って寮に戻るのはあくまで最終手段だ。佐保の白い頬を叩くのにいささかの良心が痛んだが、それだけだ。
ぺしぺし、ぴしぴし。間抜けな音が拡散、不気味なほど響き渡る。
「おい、起きろって」
「…………」
「佐保」
「…………」
「さーほ!」
「………………もっと強くぅ」
「てめえさては起きてんな」
「…………」
試しに思い切り殴ってみると、案の定、佐保はふてぶてしく起き上がった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 51