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──椎名さん、友達から映画の鑑賞チケットを貰ったのですが、一緒に観に行きませんか?
──椎名さん、バイト先から食事の割引券を貰ってしまって……消化に付き合ってくれますか?
そうメッセージを送れば、彼は必ず『いいよ』と返事をくれる。彼は優しい人だから。しかし、その優しさも時に残酷なように思える。
椎名と会いたい。もっと話したい。旭がそう感じるようになるまで、そんなに時間はかからなかった。
椎名とはサンクチュアリというバーで出会った。旭が絡まれたところを助けてもらい、そのあと媚薬を飲まされた身体も介抱してもらって。椎名は旭にとって大人の男であった。優しくて、余裕があって理想的な男。旭は今でもこの時に出会ったことを運命的だと思っている。
それからも椎名とは食事に出かけたり、遊びに行ったり、デート──旭はそうだと思っている──を繰り返している。椎名と過ごす時間は楽しくて、ついつい時間を忘れてしまうほどで、会うたびに好きという気持ちが膨れ上がっていく。
しかし、心残りなのは出会った日以来、抱かれていないということだ。抱かれるどころかキスの一つさえもしていない。それに加えて、最近ではデートに誘うのは旭からだった。誘うと椎名から断られることはまずないし、出会ってしまえば普段と変わらないから甘えてしまうが、どこか不安もあった。
──一度抱いてやったくらいで。
バーで聞いた言葉が蘇る。その時の椎名は、旭の知っている椎名とは違っていた。旭は違うからと言われたが、実際はどうなのだろう。本当はめんどくさいとか、毎回、デートのお誘いのメッセージを送られてウザいと思っているのでは。もしそうだとしたら傷つく。
会いたい、話したい。欲望は醜いもので、誘いの文言である『○○に××を貰って』はほとんど嘘だった。時々、本当の時もあるけれど、ほとんどは椎名に会いたいからとチケットも自分で用意したし、なにかきっかけを作ろうと必死だった。でも、一人で焦っているのがバレたくなくて、こういう嘘をついちゃって。しかも、旭は嘘をつけないタイプなので、追い追い罪悪感ばかりがのしかかっていく。他人から見たら情けない限りだと思う。
好きだから頑張ろうとは思うものの、こういうのを繰り返し続けて、いつまでも前向きではいられない。椎名から特に連絡のない今、旭はどこかしらで心が折れかけていた。
バイトが終わって帰宅すると、旭は早々にベッドに寝っ転がって携帯を見る。メッセージが何件か入っていたが、そこに椎名の名はない。それだけでガッカリする。忙しいから、と表面上の言い訳をして、心の中では子供っぽくいじけていた。
バイトで疲れてしまったし、このままふて寝でもしてやろうか。そう思って目を瞑ったところで、こういう時に限って眠れやしない。不安と焦りでイライラは募るばかりで、ガバッと起き上がった旭は着替えを持って浴室に向かった。
(だめだめ、ちゃんとシャワーを浴びて着替えてから寝よう……一旦寝たら、忘れているかもしれないし)
と、浴室に行くと、運良く湯船に湯が張ってあって普段シャワーで済ませていたところ、ゆっくり浸かることにした。母か妹かのどちらかが入浴剤も入れていて、リラックス効果はてきめんである。このおかげもあって、部屋に戻る頃には案外気持ちが落ち着いていた。たまたまではあるけれど、湯を張ってくれた家族には感謝である。
風呂上がりの至福として、ソーダ味の棒アイスを咥えて部屋に戻ると、携帯になにかの通知のランプが点滅しているのが見えた。旭は部屋の照明をつけて、携帯を置いているベッドへ向かう。
「んんっ……!?」
思いのほかリラックスしていたせいで、通知内容にびっくりする。思わず棒アイスを落としそうになってしまった。
「うそ、京介さん……本当に?」
画面には椎名京介の文字。椎名からメッセージが来ていたのである。しかもメッセージが来ていたのは旭が浴室に向かってからすぐあとのことで、もう少しだけ待っていればすぐに返信が出来たのにっ……と一人歯がゆい気持ちになっていた。
さっそくメッセージを開くと、椎名から『近々会えればと思うんだけど、旭くんはどこか行きたいところある?』とのことだ。
やっと。やっと椎名からのお誘いだ。嬉しくて舞い上がった旭は携帯を抱き締める。好き好き、大好き、と心の中で叫んで素早く返信を打つ。
──俺も会いたいです。椎名さんとならどこでも!
すると、すぐに返信が来て。
──今から電話してもいい?
アイスの次は携帯を落としそうになった。旭はそのメッセージを見ると、残っていたアイスをぺろりとたいらげ、椎名の携帯にコールした。
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