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「どう?」
と聞いてくるが、椎名の質問の返答をする前に旭は掴まれた手から素早く抜け出し、自分の元へと戻した。
「……わ、わかりませんっ!」
掴まれた感覚が鮮明に残っていて変な感じがする。その場所を撫でながら胸を押さえると、速い鼓動を感じた。もし仮に椎名がドキドキしていても、きっとこの鼓動よりも上回ることはないだろう。椎名より旭のほうがずっとずっと好きだから。
少し出来た空白の時間に戸惑い、旭は椎名を見上げる。すると、椎名越しに時計台が見えて、ちょうどいい時間になっていることを知った。
「それより、もうナイトサファリの時間になってます!」
「あ、本当だ。早めに着いたと思ってたけど、あっという間だったね」
「行きましょう!」
旭の心臓が爆発してしまいそうになる前に、二人は受付へと歩きだす。助かった、と旭はこっそり胸を撫でおろしていた。だが、すぐに時計へ目を向けてしまったせいで気になっていた椎名の表情を見そびれて、これだけが心残りとなった。
二人がやって来た動物園のナイトサファリは、この専用バスで園内のコースを回ることになっている。バスのライトで動物が近くに寄ってきて、間近で見ることが出来るし、日中より夜間は涼しくなって活発になる動物もいるみたいだ。
さっそく受付を済ませてバスへと乗る。椎名と楽しみだねなんて話していると、出発時刻となった。
「椎名さん、見て! キリン!」
「うわ、実物を間近で見ると思ってたよりデカいな」
「顔近い……!」
バスが出発すると、まずは草食動物がお出迎えしてくれる。
ガイドを聞きながらシマウマやゾウなどを見て、旭は童心に帰ってナイトサファリを楽しんでいた。実際、旭も動物園なんて子供の時以来である。それに記憶も朧気なので、久しぶりに実物をこの目で見てワクワクしてしまって。新しい動物に出会うたびに椎名へ話しかけていた。
途中、バスが停車して、どうやらエサやり体験が出来るらしい。スタッフからエサを受け取った椎名はすぐに旭へと手渡してくる。
「はい、どうぞ」
「椎名さんは?」
「俺はエサをあげてる旭くんを写真に収めようかな」
「動物じゃなくて?」
携帯を取り出してカメラを起動させようとしている椎名。旭が聞き返すと、椎名は柔らかく笑った。
「動物も、かな。ほら、キリン待ってるよ」
椎名の指さす方向へ向けば、キリンが顔を近づけていた。旭はエサであるスティック野菜を手に取ると、キリンが舌を伸ばしてきて。紫色の長い舌は器用に野菜へ巻きついた。
「食べた……!」
なんだか感動して、それを椎名に伝えようと振り向く。すると、ちょうどシャッター音が聞こえ、そのあとに椎名は「良かったね」と微笑んだ。
こういうのって悪くないかも。旭の胸は熱くなった。
でも、携帯の画面越しに椎名に見られていると、意識をしてしまう。微かに震える指先がそれを示していた。少しずつ涼しさを感じてくる頃だったが、この時は夏の暑さを異様に感じた。
無事にエサを与えてバスが動き出すと、とうとう猛獣ゾーンへ突入する。昼間は寝ていることが多いライオンやトラだが、夜になると活発になる。ライトで照らされ、ギラギラとした目は肉食獣ならではの覇気があった。バスへ寄ってきたり、岩の上で餌を食べていたり。その姿は圧巻で、旭は思わず見とれてしまっていた。
「旭くん、やけに静かだね。さっきまで可愛い、可愛いって言ってたのに」
「えっ、なんか言葉が出なくて……」
「あまりに静かだから怖いのかと思った」
「ちょっと、ライオンくらい平気ですってば」
くすくすと笑う椎名に旭は慌てて訂正した。普段は優しいくせに、旭をからかう椎名はとことん意地悪である。
むっと頬を膨らませつつ、旭は続けて椎名に向かって言う。
「ライオンだって猫だと思えば……」
「なるほど。こっちの期待を裏切らず可愛い発想をするね」
しかし、これも椎名の笑いを誘う一言になるという結果で終わってしまった。
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