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【番外編】金と黒 10
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後日、凛が正式に仲間入りすることを健人の口から発表された。
それからもずっと凛のことばかり。凛、凛、凛。健人の口から何回聞いたかわからない。そのたびに明はおぞましい感情が沸き起こって狂いそうになり、ひび割れて壊れていくものが徐々に崩れ落ちていった。
それでも、かわい子ちゃん狩りはやめることはなかった。しかし、健人から「今日は凛にする」と譲られたり、もし健人が新しいかわい子ちゃんを抱いたとしても「やっぱり凛が良いわー」と、祐馬が明を抱くように、健人も凛をほぼ毎回抱くようになった。
別にかわい子ちゃんを抱きたいわけじゃない。譲られても困るだけ。相手のことを考えながら抱いて、抱かれて。明は疲れていく一方だった。
──だって、ウブなネコちゃんだし、泣かれてもめんどくさいじゃん? 正直……今日のはハズレだったかなあ……。
苛立ちが募り、八つ当たりまで……。こんなの自分ではない。冷静になってから、ようやく後悔する。
そんな時だって、なにも知らない健人はいつもの凛だった。
──せっかく薬を仕込んだのに、そのまま捨てるのはもったいなかったかもなー……でも、椎名さんが相手だしな。よし、今日は凛だな!
──えっ、今日は祐馬くんと約束をしてて……。
──ああ、いいよ。だったら俺は明にいくから……また今度で。いいでしょ、明?
──うん……いいよ。
健人ではなく、祐馬に抱かれる。口説かれるのはしつこく感じるが、祐馬に抱かれていなければ、明はとっくに壊れていたかもしれない。
「……ら、明!」
「な、なに……?」
いきなり大きな声が耳に入り、明はハッと我に帰った。声の方向を見ると、健人がムッとしている。
いけない。今日は健人が家に遊びに来ているんだった。健人は明の家は自分の家より快適だと時々遊びに来る。といっても、特にすることは決めてなくて、だいたい差し入れの酒を飲んでテレビを見てゆっくりするだけなのだが。
「さっきから上の空だけど大丈夫かよ。……いや、凛がさ、明は綺麗だし、良い匂いがするって言うんだよ。確かにーっと思って。香水なに使ってんの?」
また凛の話。そういえば、家に来て早々に、凛が家を引っ越したという話から始まった気がする。
「特につけてないけどな……なんの匂いだろうね。というか、最近凛のことばっかだね。好きなの?」
「どうだろうなー。でも居心地は良いよ。明みたいにさ、昔から知ってそうな感じ!」
「そう……」
じゃあ、付き合えば?
明は口から出そうになった言葉を慌てて飲み込んだ。軽率になにを言おうとしてるのだろう。健人と凛が付き合ってしまえば終わり。健人への想いを断ち切る時なのに。しかし、今も凛にとられて同然のようなものだ。
再び物思いに耽っていると、首筋に熱を感じて明の身体がびく、と跳ねる。
「ちょっと、なに……? やめてってば!」
健人が首筋に顔を埋めて、くんくんと鼻を動かしている。驚いたのもあって、明は健人を強く突っぱねた。
ますます不機嫌になる健人。何気ないことだ。これくらいのこと、謝りさえすれば済む話。急で驚いたからごめんね、と言えばいいのに──。
「匂い嗅ぐぐらい良いじゃん。別にやらしーことしねーよ。凛なら恥ずかしそうにしてても、いくらでも嗅がせてくれるけど?」
だが、凛の名前が出てきて、もう駄目だった。明の中で我慢していたことが爆発した。一度、爆発してしまえば、止まらなくて。
「はあ? 凛と俺を一緒にしないでよ! さっきから凛、凛ってさ……だったら俺のところじゃなくて凛のところに行けば!? いちいち凛の話を聞かされてめんどくさい!」
「んだよ……あー、わかった、そうするわ。凛はお前とは違って、他のことを考えずに俺の話をちゃんと聞いてくれるしな!」
「……あっそ。じゃあ、俺は祐馬のところでも行こうかな! 二人で会いたいって前から誘われてたし……!」
売り言葉に買い言葉だった。こんなことがなければ、祐馬のところに行くつもりもない。ただ健人が少しでも嫉妬してくれればいいのに、と思って軽く言ってしまった言葉だ。
だが、健人からは鋭い視線を貰うだけで。
「そうかよ。別にお前がどこでどうしようと、どうでもいいわ」
かああ、と頭に血が上る。もういい。どうでもいいなら、知らない。
バタンと玄関が閉まる音がして、明はすぐさま携帯を手に持った。怒りに任せて素早くメッセージを入力する。送る先は祐馬だ。
──突然だけど時間ある? 会いたい。祐馬と二人きりで。
打ち終わると、勢いのままにこのメッセージを祐馬に送った。
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