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【番外編】金と黒 22
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金髪に、ジャラジャラしているピアス。しかも、今日は目立つスカジャンを羽織っていて。
そんなヤツがホテルの入り口にある花壇に腰かけている。この光景は異様である。利用客からも視線が飛んでいて、明は健人と喧嘩していることも忘れて大股で近づいた。
「ちょっと、なんでここに来るの……! 健人は立ってるだけで目立つんだから、まずいって……! こっち来て!」
すかさず健人の手首を掴むと、その場から離れていく。歩きながら、あれ、なんで健人がここにいるの、どうして、とようやく頭に思い浮かぶ。顔を見せて声をかけてくるということは、怒っている様子はなさそうだ。
職場からも離れて、人目も気にせず話せそうな場所に到着すると、明は足を止めた。ゆっくりと振り向けば、健人の姿が目に映る。やはりこれは現実なのだ。
明は切なげに瞳を伏せて唇を噛んだあと、振り絞るように声を出した。
「……二度と顔を見たくないんじゃなかったの?」
「お前と全然連絡つかねーからだろ。祐馬なら知ってるかと思って聞いたら、知らねーお前のせいだろってキレるし……」
祐馬──。
拒否をしているから連絡が来ることはないが、そうしていなければ、しつこいくらいに連絡を貰っていたことだろう。
「明、家に帰ってねーだろ。今、どこにいんの?」
「たまに帰ってるって。どこでもいいじゃん。勝手にしろって言ったのは健人だし、俺がどこでどうしようが、どうでもいいんでしょ?」
「待て待て、悪かった。これでも心配してるんだって……ちゃんと答えてくれよ」
焦っている健人を見て、明は大きく溜め息をつく。
(今更なんなの……? 怒ってるんじゃないの……?)
健人とは終わったはずだった。なのに、健人は目の前にいて普通に喋りかけてくる。その上、心配してるときた。
苛立ちも募るが、明はやっぱり健人が好きだった。嬉しくないとは言えない。だが、色んな感情が混ざりあっていて、頭が混乱する。出来ることなら、ここから逃げたいとさえ思う。
嘘をついても仕方ない。これも今更だ。溜め息のあとに沈黙が入り、明はゆっくり口を開く。
「……わかった、いいよ。最近は優しいお兄さんやおじさんを誘って、ラブホだったり、その人の家で寝泊まりしてる。……まあ、寝泊まりだけじゃないけど。話はもういいかな」
明が背中を向けようとすると、健人は咄嗟に手を掴んできた。
「馬鹿、いいわけない……って、お前、これ……!」
その時にジャケットの袖口から明の手首が見えて、目にした健人に袖をたくし上げられる。
明の手首は痣になっていた。いつかは覚えてないが、縛られた時のものである。縛ることが好きな人は案外多くて、この痣は一回分だけのものではない。
「こういうことする人が優しいのかよ! いったいどんなことしてんだっての……」
「言っていいの? 多分、引くよ」
なにも感情を示さない明の視線に、健人は息を呑んだ。
長いこと一緒にいたはずなのに、たった短い間で明と健人の距離は遠くなっていた。危ない方向へ向かっている明に健人も戸惑う。目の前にいる明が自分の知っている明ではない。
「明……さすがにヤベーって」
「健人が俺を乱パに誘ったのが始まりでしょ? こうなったのは健人のせいだよ……?」
「は……? 俺のせい……?」
ピタリと止まる空気。健人の手が力をなくしたように明の手から離れていく。
ああ、また嫌な言い方をした。健人が瞳を丸くするのを見て、明は心の奥でそう感じた。これでは喧嘩になる。むしろここまで来たら、喧嘩しか出来ないのかもしれない。
二人の間に流れる静かな時が苦しい。こんなに胸が苦しくなることなんてあるだろうか。
この沈黙を破ったのは、健人だった。
「ごめん……あと、いろいろ怒鳴って悪かったって思ってる。けどさ、これだけは……凛の件だけは、謝るべきなんじゃないかって。まだ頬とか……首はほぼ消えてるけど、痕が残ってるからよ……」
健人が出すのは凛のこと。
しかし、明は意外と冷静でいられた。時間が解決しているのか、健人が謝ってきたことに驚いているのか。
「……わかってるよ。でも、まだ会えない。時間が欲しい」
凛に会うのはまだ怖い。冷静でいられたことは確かだが、明の手は凛に触れた最後の感触を思い出して震えている。
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