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朝、激しい尿意で目が覚める。
漏れる漏れると思いながら起き上がろうとして、頭がグワンと痛んだ。思わず頭を抱え込んでしばらく痛みに耐える。
「あぁくそ、飲みすぎた」
昨日調子に乗ったことを反省しながら立ち上がろうとして、股間のムスコがペロンとズボンからコンニチワしていたことに盛大に吹き出す。
「ちょ、あぶねぇ!!寝しょんべんするとこだった!!」
カッコ悪い姿に、思わずゲラゲラ笑ってしまった。
その時までは、きっと寝ぼけてズボンを下ろしたんだろうくらいに思っていた。
チャックを上まであげて、起き上がろうと手を布団に着いた時だ。
ふわりとしたものが手に触れる。
そしてふわりとしたものの先に視線を移す。
なんてことはない、普段大好きで触りまくっているこう太の髪の毛だ。
そのこう太が真っ裸でこちらに背を向けながら丸くなって眠っていた。
背中に無数に散らされたキスマークと、尻のまわりにこびり付いた精液と血を見て、初めて昨夜のことを思い出して。
自分がとんでもないことをしてしまったことに気づいた。
*
昨夜派手に飲んで、華田と保村に家まで連れてきてもらったことはなんとなく覚えている。
それからすぐ、自分は寝てしまったはずだ。
そして恋人を抱く夢を見たんだ。
イヤ、ダメ、と可愛く嫌がる恋人に、何度も愛していると囁いている夢だ。
…夢のはずなんだ。
心臓が壊れそうなくらいに伸縮してバクバクと煩い。
頭は先端から冷えてきているというのに。
怖いけれど、こう太の顔を覗き込む。
寝息をたてているが、目の周りが赤く腫れていて頬には涙の跡が出来ていた。
肩をそっと触って仰向けにさせると、乳首は赤くうっ血してて、胸を中心に幾つもキスマークがつけられていた。
内股には俺の出した精液がこびりついていて、シーツには血がにじんでいる。
俺は気が遠くなりそうだった。
俺は頭をふって、自分を保つ。
落ち込むな、俺は何をするべきなんだ。
このままにはしておけないだろ、と言い聞かせるとこう太を起こさないように立ち上がる。
急いで風呂場でお湯を洗面器に溜めてから、静かに体を拭いてやる。
躊躇ったけれど、後孔に指を突っ込んで中の精液を掻き出す。
「ん…」
こう太が声を出したので、起こしたかと顔を覗きこむが、眉間にしわを寄せた苦しそうな顔のまま眠っていた。
「ゴメンな」
どろりと血の混じった精液がシーツに零れ、自分がしでかしたことなのに絶望する。
一通り体を綺麗にしてから、服を着せてやる。
裸で寝ていたけれど、まだ寒くない季節なので風邪はひいていないと信じたい。
だけど、冷房の付いている中で裸だったからどうだろうか。
昨夜着ていたと思われる上下はくしゃくしゃになって放り捨てられていた。慎重にパジャマの上を着せてボタンを閉める。
そして下着をはかせる前に、手を止める。
無理な挿入をしたから裂けて血が出たんだと思う。薬とか塗ったほうがいいのか、と考え込んでしまった。
それが長すぎたんだと思う。こう太が目を覚ましてしまった。
長いまつ毛が揺れて、その碧眼がゆっくりと動いて俺を捉えた。
「…あ」
俺が側にいるとわかった瞬間、こう太の顔色が青くなった。
「こう太…」
思わず手を伸ばすと、こう太の体が怖そうにビクンとはねる。
布団の上をもがいて距離をとろうとするが、うまく動けないみたいで。
みるみる間に俺に向けられる瞳が潤んでいく。
こう太は真っ青の顔のまま、頭を激しく横に振って俺を拒絶する。
「こう太、あの、あのな…」
「…ぃやぁ」
涙がボロボロ溢れ始める。
それを見た瞬間、俺も泣きそうになる。
「…こう太、本当にごめん」
俺は畳を見つめるように体を丸めて頭を下げた。
謝ってどうにかなることじゃないのはよくわかっていた。
夢を見ていたんだ、なんて言い訳は絶対にできない。
「ごめん、ごめんなさい」
こう太は何も答えてくれない。
どれくらい時間がたったかわからない。俺はひたすら謝っていた。
しばらくしてこう太はかすれた声で絞るようにつぶやいた。
「…今は一人にしてください…」
*
夢なら、本当に覚めて欲しい。
亡き恋人のパトリシアを夢で抱いていたと思ったら、現実で息子のこう太を抱いていた。
「最悪だ…」
扉にもたれかかりながらズルズルと廊下にへたり込む。
鈍い痛みがする頭を拳骨で何度も殴りつける。
こう太の痛みはこんなもんじゃないだろうに。
こう太のあんな表情見たことない。
俺が馬鹿言ったりやったりと何かすると、こう太は呆れるか説教するか。
それか、必死に止めるかドン引きするか。
笑ってくれるか。
『今は一人にしてください』
こう太は俺を一度もみることなく震えていた。
嫌われたなんて生ぬるいものじゃない。あれは俺に恐怖を抱いていた。
酒に酔っ払ったこんな親父に強姦されたんだ。
まだ小学生で性行為なんてもん全く知らないだろうし、無理やり好き放題体を触られて、あげく、中出しされて…。
「何やってんだよ俺はぁぁぁ」
両手で爪をたてて頭をガリガリとかきむしる。
自分が許せなくて痛めつけることしかできない。
「…今まで頑張ってきたのが全部台無しじゃねぇか」
努力してきたことを、自分自身の手で台無しにしたことにも、ショックがでかかった。
あの子を傷つけないように、嫌われないように、良いお父さんになろうと頑張っていたじゃないか。
なのに、酔っ払って全ておじゃんだ。ついこの間も酒で失敗したばかりだというのに。
こんなのいつも笑って許してくれる失敗のレベルじゃない。
いや、許して欲しいわけじゃない。
一生恨まれてかまわない。
ただ怖いのはこう太の「施設に行きたい」が再発するんじゃないかということだ。
去年みたいに施設に預けてくれと言われたら、今度は引き止めることができない。
引き止められる理由がどこにもない。
もうこう太と離れることなんてできない。それだけは絶対に嫌だ。絶対に手放したくない。
俺の勝手だなんてよくわかっている。
だけど、こう太を手放したくないんだ。ずっと側にいてほしいんだ。
確か去年の十月に、こう太が泣きながら「ボクは施設に行きたいんだ」と言われた。
俺を嫌ったりとか生活が嫌だとかじゃなくて、いつか俺に捨てられるんじゃないかと不安になっての言葉だった。
「今はよくても、いつかきっと父さんはボクが邪魔になる。その時施設に預けるくらいなら、今施設にいれてください。これ以上一緒にいたら、ボクはお父さんと離れられなくなる。このままだと、父さんを大好きになっちゃうんだ」
その言葉で頭をガツーンと殴られたような衝撃をうけ、それまでの頭の中のお花畑はパーンと弾けとんだ。
そうだ、あの時自分で誓ったじゃないか。
死んでしまったパティの分も、この子の良いお父さんになろうって。
こう太との二人きりの生活はもの凄く楽しい。
俺に似ないしっかり者で綺麗好きで、素直じゃないところが可愛くてたまらなかった。
だけど、こう太と生活しているとついつい思ってしまう。
『パティが生きていたら、もっと楽しいんだろうな』
『ここにパティがいれば良かったのになぁ…』
『パティがいてくれればなぁ』
こう太の姿を通して、親子三人での生活を妄想していた。
それは本当に夢で、ありえないことなんだけれど、俺は一人のんきにそのお花畑で笑っていた。
だから。
「ボクを施設にいれてください」
その言葉で、俺が見なくちゃいけないのは死んでしまったパティが生きていたらという夢じゃなくて、泣いているこう太のいる現実だというのにようやく気が付いた。
こう太が気づかせてくれた。
『君が見なくちゃいけないのは、死んでしまった人との過去じゃない。生きている人との未来を見なさい』
パティを失ったばかりの時に、恩師にそう言われた。
だけど、当時腐っていた俺にはただのイヤミにしか聞こえなかった。
愛しい彼女を忘れろというのか、と一歩的に罵倒すると恩師の家から飛び出した。
恩師の言葉の意味が十年後にようやくわかった。
死んでしまった彼女との幻をみている場合じゃない。
今、目の前にいるこう太のことを一番に見なくちゃいけないんだ。
綺麗好きで家事ができるんじゃない、疎まれないように自分の身の回りのことを一人でできるようにならなくちゃいけなかったんだ。
素直じゃないんじゃない、俺に遠慮しているんだ。
落ち着いているんじゃない、心を殺しているんだ。
「こう太、全然見ていなくてごめんな」
この子のことを一番に考えよう。
この子の幸せを一番に考えよう。
俺がこの子を幸せにしてあげるんだ。
その自分の決意を、全部自分が壊した。
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