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多分、フランス個展が終わったら間宮くんが本気だす。
俺はそんな彼に戦々恐々としながらも、またフランスに行って締めの挨拶をしてきた。
嬉しいことに、たくさんの老若の男性陣と麗しき老女達から惜しみない拍手をいただいた。
そう、若いお姉ちゃんのファンは片手で数えるくらいしかいない。ハハ、ハハハ。
カタコトのフランス語で「フランスは遠いので、次は皆さんと日本でお会いしたいです」と挨拶をしたら笑ってくれた。
寂しい反面、なんだかんだ楽しかったなぁと思い、可能な限りのファンと交流をしてから日本に帰ってきた。
俺のいない間の一週間。
またこう太のことを森崎くんにお願いしようかと思ったんだけど、保村と華田のこう太寄越せコールにより、平日は華田の家、休日は保村の家で面倒を見てもらった。
そのお礼は勿論なんだけど、結城さんの料理屋にも行ってみたかったので二人との久々の飲み会を結城さんの店でセッティングした。
行く前に二人に店の場所を教えると、華田がちょっとニヤついているのが珍しかった。
結城さんの店は思ったよりも結構小さいんだけど、内装がなんていうか侘寂?で厳かだ。
店内にある掛け軸や生けられている花なんかもすごく品がいい。全体的に数寄屋造りの内装はカウンターしかない。
そのカウンターだって十二個くらいしかないのに、俺達の分以外は全部埋まっている。お客の層も結構富裕層っぽい。あぁ、社長がファンっていうのも納得できる。
カウンターで何やら作っていた結城さんだったけど、俺達が入ってきたことに気づいて「いらっしゃい」と顔を上げた。
途端、結城さんの顔がこれでもかってくらい歪み、ただでさえ細い目がびっくりするくらいに睨むような形になった。
なんだなんだ?と俺と保村が不思議に思っていると、後ろに立っていた華田が「どうも」と含み笑いしながら顔をだした。
結城さんは若い店員さんに「塩、ひたすら塩」と華田を指さしながら命令していた。塩をまいておけという命令に、若い店員はオロオロと困っていた。
その様子を見て、珍しく華田が声をあげて笑った。
「何?知り合い?」
「娘の通っているピアノ教室が一緒なんだよ。娘同士も同い年で仲良しだ」
「おい、バカ息子は来てないだろうな?」
「安心しろよ、連れてきてねぇよ」
娘の習い事で知り合ったはずなのに、なんでそこで息子の話題になるんだろうと、俺と保村は顔を見合わせた。
*
国語の時間に「将来の夢」をテーマに作文を書く宿題がでた。
わりと作文は苦手じゃないけど、作文用紙二枚以上みたいなことを言われたので何を書いて作文用紙を埋めようか悩んだ。
ふぅ、と隣の席からため息が聞こえたので振り返ると、垓くんが頬杖をついて作文用紙をじっと見ていた。ため息つくなんて珍しいなぁと思いながら、ボクは垓くんの将来の夢を聞いてみた。
「お父さんみたいな医者になりたいんだ」
作文用紙から目を離さないまま垓くんが呟いた。それから、「兄さんは医者になんて興味ないから、僕が診療所を継ぎたいんだ」と続けて、何故かまたため息をつく。
そういえば前に、うちの兄さんは冒険家になりたいとか言ってるんだよ、と垓くんが苦笑いしていたなぁ。
でも、垓くんはちゃんと将来のことを考えていて偉いなぁ。ボクなんて、ボンヤリとしか考えていないのに。
「でもね、彼女のお父さんは料理人なんだよね」
「へぇ…かかか彼女!?」
「『うちのお店を継げ』みたいなこと言われたらどうしよう。ただでさえ、僕のこと敵視しているのに。あ、でも僕次男だから、婿養子に入るのは構わないんだけどね」
「垓くん、彼女って?」
「僕の彼女。可愛いんだよ。いつも僕のプレゼントしたピンクのリボンつけてくれるんだ」
彼女って、恋人のことか!え?そんな話聞いたことないんだけど。
…なんでだろう、ちょっとショックなんだけど。
でも、垓くんがちょっとニヤニヤしているの珍しいな。ニヤニヤしててもカッコイイなんて、うちのお父さんと大違いだ。
「こう太は、お父さんの跡とか継ぐの?」
「ふぇ?」
急に言われたので、ボクは変な声がでた。
お父さんの跡を継ぐなんて考えたことないや。そもそも、お父さんの書道には流派とかあるのかな?それすらちゃんと聞いたことないや。
跡を継ぐって言っても、森崎さんに教わって字は少しは上手になったけど、それでもまだまだ下手くそだし。図工は苦手で、絵を描くのも苦手だ。
別にお父さんから、継いでくれとか言われたことないし、今までそんなこと話したこともない。
「…わかんないや。今まで、そんな話もしたことないし」
「そうなんだ。こう太は将来何になりたいの?」
「ボクは安定した公務員になりたい」
「現実的だね」
*
お夕飯を食べ終わって、お父さんとリビングでまったりしていた。
「おいで」って呼ばれて、お父さんの膝の上に座る。
最近「おいで」ってボクを呼ぶのがなんだか恥ずかしい。テンション高く呼びつけてくれれば「仕方ないなぁ」とボクも行きやすいのに。
っていうか、「おいで」って言い方がなんか、カッコつけているようでムカつく。…胸がドキドキしてくるから。
だけど、お父さんの胸に寄りかかる形で座って、後ろから抱きしめてくれるのは、好き。
「あのね、宿題で将来の夢をテーマに作文を書きなさいっていうのが出たんだ」
「あ、じゃあ邪魔しない方がいい?」
「ううん。もう書き終わってるんだけどね。…お父さんは、将来ボクに跡を継いで欲しいとか思ってる?」
ボクの質問に、お父さんは「へぇ?」とか変な声を出して驚いた。その反応で、ボクみたいに一度も考えたことがなかったことがわかる。
「そもそも、お父さんは恩師のおじいさんの跡を継いだりするの?」
「いや、多分そういう後継者云々の流派じゃないと思うから、それはねぇよ」
そう言ってから自分で「俺んとこなんか流派ってあるんだっけ?」とか尋ねてきたから、ボクは呆れてしまった。自分のお師匠さんのことなのにこんなにいい加減でいいのかなぁ。
「じゃあ、ボクがお父さんの書道の後継者みたいになったら嬉しい?」
「いやー…そりゃ親子で出来たら楽しいだろうけどよ。後継者とか考えたことねぇな」
「そっか。でも、もうちょっとお習字練習したら親子で何かできるかな?」
「いいって。最近、字が上手になってきたからそれで十分だろ。俺みたいに見る人を選ぶような字よりも、普通に読める綺麗な字を書ければいいんだ」
いきなり字を褒められたことが嬉しくて、ほっぺたが熱くなる。
お父さんがフランスから帰ってきてからお習字を見せようと思っていたんだけど、ボクが小説について不機嫌になっていたから、そのままうやむやになってしまった。
だから、ちゃんとお父さんの前で見せたことないはずなのに、字が上手になったことを知ってたことに驚いた。
それと同時に、もっともっとお習字を頑張ろうって思った。
嬉しくてお父さんの大きな手に自分の手を重ねてギュッと指を絡ませて握ったら、お父さんも握り返してくれたから、もっと嬉しくなる。
「お父さん的にはボクになってほしい職業とかあるの?」
「アイドル」
「」
アイドル?アイドルって言ったこの人?何アイドルって?しかも、顔見えなかったけど、声がすごく真面目だったんだけど?本気?本気ってこと?本気でボクにアイドルになって欲しいの?え?え?えぇ?
「…ボク、将来は公務員になりたいから、アイドルにはならないよ」
「そっか」
とりあえず、ちゃんと嫌と言っておかないとと思ってそう言うと、お父さんは得に驚いたり残念そうな感じじゃなくて、すごく普通に頷いた。
ボクの頭の中を「アイドル」という言葉がグルグル回っている。
「まぁ、まだ小学生だからな、ゆっくり考えればいいさ。高校生になったらそうはいかねぇだろうけど」
「そうだね」
「こう太はこう太のなりたいものになればいいさ。父ちゃんがこう太を支えるからさ」
「うん」
お父さんの優しい声が降ってきて、その言葉に包まれているみたいですっごく安心する。嬉しくてお父さんの体に擦り寄ると、お父さんはボクを抱きしめてほっぺたをくっつけてくれた。
おっきくて、あったかくて、優しいお父さんが大好きだって、心の中からグワーっと大好きって感情が溢れてくる。
だからつい、本当になりたいものを言ってしまった。
「…だったら、ボクはお父さんのお嫁さんになりたいな」
こんなこと普段ならバカバカしくて言えないんだけど、今二人でくっついている時くらい良いよね。お父さんも、多分笑っちゃうよね。こんな小さい子供みたいなこと。「ちっちゃい子供みたいだな」っていつもみたいに大声で。
…なんてこと考えてたら、そのまま抱きしめられて床の上をゴロゴロされた。
フローリングの上で転がったら体が痛いだろうに、お父さんはボクをしっかり抱っこしたまま今までにないくらいの勢いで転がった。頭がぐわんぐわん揺れて、離してくれと頭を叩こうにもがっちり掴まれて逃げられない。
「な?何?なんなの?」
「しよう」
「へぇ!?」
お父さんはひとしきり床の上を転がってから、ボクを起こしてそう言った。
目が見たこともないくらいに真剣だった。っていうか、なんか本当にクマみたいだ。
「な、何?しようって?」
「騎乗位でも背面座位でもいっそ菊一文字でも良い、しよう!!」
「わけがわからないよ!!」
「ホント、なんなのお前!?可愛すぎるのもいい加減にしろよ!!こっちの身にもなってみろよ!!お前、今夜は寝かせねぇかんな!!」
よくわからないキレ方をしたお父さんにキスされて、ようやく「しよう」って言うのがエッチなことをしようの意味だってことに気づいた。
明日も学校なのにバカ言うなと頭を叩いて怒ったけど、結局旅行の日の夜のようなことをされたので、次の日一日中口をきいてやんなかった。
後日、お父さんが言った「騎乗位」とかをネットで調べて、一週間口をきいてやらなかったのはまた別の話だったりする。
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