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Hey, do you want to eat delicious one every day?
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十一月に入りました。こう太がこの間から口を聞いてくれません。
(1)
間宮くんは知らない間に結城くんと話をつけていて、今度彼が出店する和食料理屋の内装に俺が関わることとなった。書とか水墨画なんかを書いては店内に飾ってくれるとのことだった。
更には「考えんのめんどくせぇ」からと、結城くんの知り合いとか言う酒造が出す日本酒のラベルの文字を俺が書く事になった。
なんか更には「面倒くせ。石川さん、任せた」と言う一言で、なんか彼の友達の刀鍛冶の個展のポスターデザインやパンフレットに関わることとなった。
どっちの件も「いい人いないかな?」と探すように先方から無理に頼まれたとのことだ。
その良い人を探すのが面倒だからって全て俺に丸投げしてきた。
そんな感じで、結城くんはやたらと「面倒くさい」「面倒くさい」と言ってはダラダラしてるんだけど、すっげー俺に仕事を回してくれる。
独立準備もあるんだけど、正直興味のある分野の仕事だから楽しい。
でも、俺と仕事なんかしちゃったら、嫌でもパトロンの親父と縁持っちゃうんじゃないのか。
そう言ったら、「あの親父めんどくせぇから好かん」と一蹴された。
無関心そうに呟いた彼の空いたグラスにビールを注ぎながら、思わず俺は笑ってしまった。
「それにしても世間は狭いな。俺のパトロンが結城くんのファンで、結城くんと華田が知り合いで。娘ちゃんの彼氏が垓で、垓の友達がうちの息子だからなぁ」
「彼氏じゃねぇから」
俺の言葉に結城くんはギロリと睨んだ。
結城くんは一見無気力なんだけど、ちょっと近寄りがたい雰囲気があるから一匹狼みたいだ。だけど、可愛い奥さんと一人娘を溺愛している。本人は照れちゃって憎まれ口叩いてるんだけど、言葉の端々から二人を何よりも大事にしているのが聞いていてわかるから微笑ましい。
ちなみに、結城くんは垓のことが大嫌いだ。
勝手に垓が娘ちゃんと結婚の約束をしたらしく、垓に勝手に将来のお父さんとか言われているらしい。
それを面白がる華田にも噛み付いている(始末が悪いことに、華田は『娘が増えて嬉しいな』とか煽る)
さすがの俺も、「子供の言ってることなんだし、本気にしすぎじゃねぇのか?」って言ってしまったんだけど。
「娘に、『大きくなったら何になるんだ?』って聞いて、『パパのお嫁さんになるの』って返ってくるのを想像していたのに『垓くんのおよめさんになるの(はーと)』って返された俺の気持ちがわかるか!?あ”ぁ?」
結城くんは拳で強くテーブルを叩いた。
あー、お父さんの夢だよな「パパのお嫁さんになるの」っていうセリフは。
「それは嫌いになるな」とか頷きながらも内心、
『垓に彼女がいるんなら、こう太を取られる心配はねぇな』とほくそ笑む俺がいた。
「…悪い」
ひとしきり愚痴を吐いた結城くんの携帯が震えた。どうやら着信が入ったらしく、カウンター席から離れると奥に行ってしまった。
しばらくしてから帰ってくると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
「悪いが今日はもう解散していいか?」
「あぁ、構わねぇぜ。どうかした?」
「嫁が料理失敗して泣きながら電話してきやがった」
それを聞いてちょっと意外に思った。いや、完璧に俺の偏見なんだけど、結城さん料理人だから奥さんも料理上手だとか思っていた。
それを言うと、結城くんは事も無げに「うちの嫁メシマズだからな」と呟いた。
「じゃあ、結城くんが家でも料理するんだ」
「普段はな。だけど今日はアンタと飯食いに行くからって、『私が作りますね』って送り出された結果がこれだ。ほんと、仕方ねぇ嫁だよ。この埋め合わせはまた今度な」
そう嫌そうに言うわりには、さっきまでちょいちょい嫁のノロケ話を聞かされていたので、こいつもツンデレなのかな、とか思い始める。
「何時でもいいぜ。それにしても、料理できる人って尊敬するわ。俺なんて息子に作ってもらってばっかりだから、何もできねぇや」
「そんな大層なものじゃねぇって。面倒だから凝ったもんなんか作らないし、味付けなんて適当だしな」
「へぇ」
「ま、それでも美味いって喜ぶから、毎日作ってやるんだけどな」
やれやれ仕方ねぇよな、って口調なんだけどどう見ても口元が嬉しそうにゆがんでいる。
これもツンデレなのか聖斗に聞いてみるかなと思いながら、俺は彼を見送った。
*
久しぶりに発したこう太の第一声は「買い物に行きたい」だった。
俺はもうテンション高くして「何処に行きたい?」「何買う?」「手つなぐか?」と質問攻めだった。
そんな俺とは反対に、ウンザリとした顔でこう太に「お父さんうるさい」と言われてしまった。
五秒くらい反省した後、俺はこう太の手を無理矢理掴んでショッピングモールに向かった。
「十一月末に、社会科見学があるんだ」
そう言いながらこう太は弁当箱の蓋を開け閉めしていた。小さな可愛らしいキャラクターものや、何人分だよってくらいでかいものまで、一口に弁当箱と言っても色んな種類があることに俺達は驚いた。
こう太はいつになく真剣な顔で弁当箱をジッと見ていた。
社会科見学とかそんなものあったなぁと一人しみじみしていると、ふ、とうちに弁当箱あったような気がした。
それをこう太に尋ねると、こう太は呆れた顔で「あれはタッパー」と答えた。
「まぁ、タッパーにおかず詰めておにぎりとかでも良いんだけどね」
「でも、どうせなら良い弁当箱欲しいよな」
「うん。前そうやって持って行ったら、ボクだけタッパーで、他のみんな普通のお弁当箱だったから、恥ずかしかったんだもん」
前、という単語にいつ持って行ったのかが思い出せなくて俺は首を傾げた。途端、こう太の顔がしまったという顔になった。
それっていつ?って尋ねると小さな声で。
「四月の遠足の時…」
四月…四月ってあれか、俺が忙しくてまともに家帰れなかった頃か…!
その瞬間、頭ん中に忙しさに追われている光景が鮮明に浮かび上がる。
同時に、こう太を構ってやれなくて寂しい思いをさせてしまった記憶による罪悪感と、こう太を買い物に連れていけなかったという猛烈な不甲斐なさに襲われ、テンションが一気に下降していく。
「…ゴメン、ホント、駄目親父でゴメン」
「あ、謝らないでよ!お父さんは忙しかったんだからしょうがないじゃないか!それに、ボク一人でも買いに行けたのに、めんどくさがって行かなかったんだもん!だから、お父さんが悪いわけじゃないよ!!」
その場で体育座りするみたいに座り込んで顔をうずめる俺の頭をこう太がよしよしと撫でてくれる。
必死に慰めてくれるのが逆に申し訳なくて俺のテンションは全くと言って良いほど持ち上がらない。
だけど、決意した。
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