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デートの誘いは計画的に 東條×千晴
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「あれ、東條さんじゃないですか。どうしたんですか」
千晴の顔を見た瞬間、その決意はいともたやすく崩れ去りそうになる。ドアの隙間から少しだけ除く瞳をまともに見ることすら適わない。目が合ってしまえば一瞬でこの場から逃げ出してしまいそうな気さえした。緊張しすぎて全身の節々が軋みをあげた。
いきなりそっぽを向いてしまった東條に不思議そうな表情をする千晴。
本人を前にするだけでこんなにも違うものなのか。
言うのは簡単だが、実行するのは遥かに難しいということを学んだ東條は、喉の奥の異物感にむせ返りそうになった。石か何かを詰め込まれてしまったかのような違和感が邪魔をしてくる。だが言わなければならない。
臆病な自分を強引に抑え付け、首に手を添えて咳き込み誤魔化す。まだ視線は重ねられない。
「映画、好きか」
「え?はい好きですよ!DVDで見るのもいいんですけど映画館とかでポップコーン食べながら見るのもいいですよねー」
無邪気に答える千晴に安心しつつ、次にどう続けるべきか東條は悩んだ。単純に誘うといっても口調や言葉が違うだけで受ける印象もずいぶんと変わってくる。慎重に考えて千晴が喜んで付いてきてくれるような誘い文句を生み出そうとしたが、その前に勝手に東條の口は動いていた。
「今度の日曜日、映画行くか」
深く悩む必要なんてない。
「え」
「チケット押し付けられて。その、行く相手いねえから、一緒にどうかなって」
自分が思ったことを簡潔に伝えれば気持ちは伝わるはずだ。ずらずらと言葉に出しても、肝心なところが伝わらなければ意味なんてない。
驚いた千晴に気まずげな吐息を一つこぼし、やや頬を赤く染めた。
「嫌か」
「いいえちょっと吃驚しただけです!東條さんからそういう風に言ってくれるの初めてだから!俺、絶対行きます!」
心の底から行きたいと言っているのが分かる様な晴れ渡る笑顔。その微笑を直視した東條の全身から力が抜ける。入れ替わりでやってきたのは、どうしようもないほどの恥ずかしさと愛おしさだった。咲き誇る笑みが向けられているのは確かに自分だということを、柄にもなく嬉しいと思う。
「俺、スゲエ楽しみにしてますね!」
千晴はうきうきと弾みながら胸の前で握り拳を作った。東條の大きな手がその小さな手を上から覆う。握りしめられたのだという事実を認識する前に優しく触れた唇の温かさに目を満月みたいに丸くする。みるみる紅色に染まる柔らかそうな頬っぺたに手が伸びそうになった。
「俺のほうが楽しみにしている」
まだ赤みの残った頬を隠すように口角を吊り上げその場を後にした。ぼーっと背中を追ってくる視線にまた恥ずかしくなる。赤面して熱を持った頬を拭う。笑ってしまうほど熱かった。
今度の日曜日が楽しみだ。
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