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その時の彼の顔は、嘘なんて何一つない、愛情に満ち溢れた朗らかで、悲しい顔だった。
本当に大切にしているんだ。この家族を――
「ああ……素敵な方たちだね」
「はい、大好きです」
そう言って佐和田は祖父母に笑顔を投げ掛けた。二人もつられて笑い返す。和やかな雰囲気がこの場を包んでいた。
「先生。オレの部屋、上がって下さい。そこで話します」
「ああ、わかった。二階か? どの辺りだ」
「二階上がって一番奥の部屋です」
「わかった」
佐和田の祖父母に会釈してその場を去ると、玄関に戻り、そこにある階段を上っていく。そのまま一番奥の部屋に入った。
「は……――」
目の前の光景に言葉を失った。何も浮かばなかった。なんと言えば良いのかわからなかった。
だって、だって、だって――
「な、なんだよ、この部屋……」
佐和田の部屋は綺麗だった。真っ白な壁が際立って綺麗だった。しかし、その中に置かれている全てが異質だった。
ダブルだろうか――大きなベッドには鎖が繋がれていて、その先には手錠が付けられている。平然と並べられているアダルト用品の数々。本棚には『洗脳』、『調教』、『堕落』等の言葉が並ぶ関連本がずらり。仕舞いには扉に様々な種類の鍵が5、6個取り付けられていた。
「こ、こんな……こんなこと……」
「先生、お待たせ……」
ゆっくりと扉を後ろ手で閉めるのが肩越しに見えた。振り返ると、佐和田がにんまりと口角を上げて首を傾けた。
「さ、さわ、だ……」
「驚いた……? 無理もないね。誰もオレがこんなことしてるなんて夢にも思ってないから」
佐和田はガチャガチャと扉に取り付けられている全ての鍵を閉めていく。一つ一つ閉められていく度に恐怖が一段と上がっていく。
「オレだって本当は優しく愛したかったんですけど、先生……"所有物"なんだもん」
「え……」
佐和田はゆっくりと浅海を後ろからぎゅっと抱き締めた。そのまま耳元で囁く。
「知ってるよ、先生、瀬世とデキてるんでしょ?」
「な、なんで……!」
「あはは、見ちゃったんだ。先生とアイツが抱き合ってるの」
ぐぐぐ……っ、と浅海を締める力を強くする。耳元にかかる吐息が次第に荒くなっていっているのがわかる。
「先生を初めて見た時、可愛い人だって思いました。愛したいって思いました。――……家族にしたいって思いました」
ずん、と気持ちに重い物がのし掛かった。それは、佐和田に対しての同情であった。『家族』、その言葉が佐和田の口から出るとき、浅海は彼に対してどうしようもない哀れみを抱いてしまうのだ。
振り払えない……――
「でも先生はアイツのものだった。だからオレは、先生を奪おうって決めました」
「ば、馬鹿言うな……オレと瀬世は、そんな……」
浅海が口を開くと、佐和田はその口に指を二本突っ込んだ。
「んぅう……!」
「見たって言ったでしょ? 何言っても誤魔化せませんよ。ねぇ、先生。オレと家族になろう? 家族になって一緒に生きよう? 愛し合おうよ」
ぐちゅぐちゅと口の中を掻き回しながら、耳元で囁き続ける。
「好き……好きです、先生。好き、好き。先生、ねぇ、好きって言って? オレも好きって、一緒にいたいって言って?」
口から指を出すと、佐和田は浅海の腰をぎゅっと抱き締めた。そして、自身の下半身をぐりぐりと押し付けた。
「家族になったら、まずは子作りしないといけないよね。オレしたことないけどさ、勉強したんですよ。絶対アイツより気持ちよくしてあげられる」浅海の耳朶をはむっと唇で挟む。「ねぇ……先生、言って?」
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
佐和田の愛は狂気と化した。家族への欲求を浅海への愛と重ねることによって歪んでしまったのだ。
浅海はふるふると震えながらも、首をねじ曲げ佐和田を睨んで言った。
「……無理だ。オレは――オレは、瀬世と一緒に生きたい」
その瞬間、佐和田の顔から笑みが消え、恐ろしく冷徹な雰囲気を纏った瞳で無表情に浅海を見つめた。
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