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新学期(12)
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「はぁ、新学期早々にぶっ倒れるなんて……。」
「朱雀様は、理人の体調不良の原因を御存知ですか?」
「確か、君は……。」
「早乙女です。」
「ああ!そうだ、潤か。」
「はい。……原因、御存知ですか?」
「御存知もなにも……俺はこの子の〝保護者〟だからな。」
3人掛けのソファの真ん中に1人で深く腰掛け、足を組んでいる朝日奈家現カゲロウの慧は、潤の質問に微笑みを返す。
理人と同じ銀髪は腰もとまであるストレート。
顔の造りは、理人に大人の色気と、哀愁を足したような見た目。
聖夜の膝枕でスヨスヨと寝息を立てて眠る理人は、実父の俊樹より慧の方が似ている。
「では、何があったのですか。」
「それは言えない。」
「そうですか。」
「へぇ随分と物分りがいいな。ところで……さっきから、あの隅っこに居るおちびは……誰だ?」
慧の視線の先には、一番出口の近くの壁際にいた桜庭の姿がある。
桜庭は慧と目が合うと、すっと3歩前に進み出て挨拶をした。
「お久しぶりにございます。この度は、大変お世話になりました。」
「あぁ、涼介じゃないか。久しぶり。無事に編入出来たんだな。」
「はい。ありがとうございます。この御恩は……。」
「そういうの、いらねぇ。正しい道に進め。お前が出来んのはそれだけだ。」
「はい。」
涼介は、返事をするとまた壁際に戻った。
「お知り合い、ですか?」
聖夜が理人の背中を擦りながら慧に質問をする。
「あ?聞いてねーの?」
「まさか…。」
慧の言葉に、何かを感じたらしい潤が目を見開く。
「そのまさかだよ。こいつは、俺が見つけた。」
一斉に桜庭へ皆の視線が向けられる。
「……申し遅れました。この度編入いたしました、桜庭涼介と申します。餓鬼に憑かれたフランス人形に襲われ、死にかけていた所を朱雀様に助けて頂き、この様に手厚く保護までして頂きました。これまでは、執事としての教育を受けておりましたので、楽師のことについては全くの無知でございます。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします。」
桜庭の挨拶が終わると、よろしくと、皆が軽く挨拶を返す。
一瞬サロンが静寂に包まれると、理人が寝返りをうち、背もたれ側からローテーブルの方を向いた。
「ケホッ……お前は、俺の僕だ。」
目を開けた理人の突然の言葉に、Sクラスのメンバーも、慧も、昴も驚いた。
特に、一番衝撃を受けているのは聖夜だった。
「り、りひと?」
「聖夜、なんて顔してんの?お前は守人、あいつは執事、俊一郎がたくさんの人を侍らせているんだ。俺も、お前達全員を侍らせる。ゲホゲホ……。」
起き上がる理人の身体を支えながら、聖夜は困惑していた。
自分の主は何を言っているのだろうか。
それは、サロンに居たほかの者も同じだった。
普段、理人はこんなことは言わない。
むしろ自分より他人の気持ちを優先し、先程のように危険な目にあったことは数え切れない程ある。
失うのが怖くて、聖夜以外に独占欲剥き出しの発言をすることは全く無かった。
それなのに、今は貪欲に人を求めている。
「この十人で、楽師団の試験を受ける。異論は?」
さっきまで死に掛けていた人物とは思えない、堂々とした佇まい。
肯定以外を彼に返したくないと思わせる、オーラ。
全てに圧倒され、Sクラスのメンバーは立ち上がった。
「……ヤタ様に、何処までも、ついて行きます。」
潤が片膝をつくと、皆それに続く。
「楽師団の団名は……〝鈴蘭〟だ。」
理人がそう呟くと、笛の音が聞こえてきた。
そこに鈴の音が重なる。
「ふふっ。なぁ、これで俺達、家族だろ?」
理人が聖夜に微笑みかけると、それぞれがほんのり暖かな何かに包まれた気がして、そこに触れる。
触れるとひんやり冷たく、見ると痣が出来ていた。
理人は胸元の左側に。
聖夜は項に。
潤は左目の下に。
吹雪は額に。
鉄平は右手の甲に。
香は左脚の太腿に。
アリスは左の二の腕に。
流生は右足首に。
怜は右目に。
涼介は左足の甲に。
皆、同じ鈴蘭のような形の痣がくっきりと浮かび上がっていた。
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