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学び舎なれど
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「楽師団は、長年の歴史で確たる地位を築き今日に至ります。餓鬼を滅する最初の禊法を施したとされているのが、羽黒神尊(はぐろのかみのみこと)鳥海(ちょうかい)です。この方は、今日の朝日奈家初代当主でもあります。そして、彼の禊法を手伝い最初の守人とされているのが、湯殿山大姉(ゆどのさんだいし)早ノ乙女(はやのおとめ)で、今日の早乙女家初代当主です。」
新学期が始まり早や一か月。
本格的に授業が始まり日々があっという間に過ぎていった。
担任の海野は、あの夕食の後大人しかったが最近また肩を張り始めた。
桜庭はようやく馴染み、他人行儀なところがなくなったが、幼いころから教育されて来ている彼らとは違い、本当に学ばなければいけないことが山のようにある。
今だってこうして話を聞いてノートにメモを取り、必死ついていくのが精いっぱいである。
「……ということです。では、今までのところで分からないところはありますか?」
歴史担当の教師が教科書を閉じて教室を見回すと、静かに手を上げる理人と目が合った。
「はい、朝日奈君。」
指名され、上げた手を下した理人は左手に持っていたシャーペンを起用にくるりと回した。
「はい。……なぜ、楽師と守人の教育に、年齢や学年の差別をしないようになったのですか。」
「……ですから、それは、先ほども言いましたように、先人たちによって早急な教育が必要だとされたからで……。」
質問に対して、先ほど読み上げた教科書の文そのままに返した教師に「は?」と潤は声を出した。
鉄平がその態度をごまかすように手を上げると、教師もすぐに鉄平を指名した。
「早急な教育が必要なら、わざわざ初等部、中等部、高等部、と分けずにそれ専門の12年間通える学校を作ればよかったじゃないですか……と僕は思います。どうですか?」
「う、それをわたくしに言われましても……。」
「おかしいと思いませんか、先生。」
「何がです?早乙女君。」
「中等部から高校に入学しても、俺たち楽師科は進学扱いで在校生。中等部から来た普通科の生徒は外部入学の奴らと入学式に参加する。うちの流生や怜、アリスは同い年の奴らと一緒に祝われない。普通科の奴らは祝われるのに。なぜです?」
「それは……申し訳ないですが、答えを提示することはできません。」
「そうですか。ありがとうございました。」
口論になりそうな勢いを察して理人が話を打ち切ると、タイミング良く五限目の授業終了のチャイムがなった。
「では、本日の授業はここまでにします。次回は小テストを行いますので、復習を忘れずに。」
教師が退室した後、視線はすぐ桜庭に集まる。
「大丈夫か?」
香が声をかけると教科書に付箋を貼っていた桜庭は、笑って返事をした。
「大丈夫です。毎回ありがとうございます。」
「いや、アイツの授業は教科書の音読と、ちょっとした補足で終わるからな。一回の授業の進み具合がえげつない。」
香が苦笑いをすると、鉄平も盛大にため息を吐く。
「ほんとだよー、しかもまた小テスト。」
鉄平がデローンと机に伸びると、教室の雰囲気も和らいだ。
「あの、俺も編入したときに違和感に感じてたこと、理人さん達も変だと思ってたんですね。」
「ん?……ああ、進学のこと?」
聖夜が反応すると、桜庭は苦笑いして続けた。
「そうです。アリスさん達は、入学式に出ないのかなと思っていました。でも、当日は祝いの禊法で忙しかったですし、気にしていなかったのですが、楽師科のほかのクラスの新入生も、在校生の中に混ざって参加していたなと思って、気になっていたんです。学年で言うと、一年生のはずなのに始業式にも出ていましたし。」
「俺も、まったく同じ疑問をいだいてるよ。理人が歴史の先生にあの質問した時は、さすがにヒヤリとしたけどね。」
「他に質問することがなかったからな。」
聖夜の目を見て答えた後、すっと窓の外に視線を移す。
傾きかけた日に照らされて、世界がキャラメル色に輝いている。
「潤はヒートアップしかけてたしねー。」
鉄平が机に伸びたままそう言うと、潤は肩をすくめて見せた。
「裏があるな。」
理人がポツリと、窓の外を眺めたまま呟くと、怜と吹雪は読んでいた本を閉じた。
誰もが触れてこなかった領域に、この正義感の強い主は違和感と疑問を抱いてしまった。
そんな彼が次に何を言うのか、聖夜たちは容易に想像できた。
真実を見つけ、それが過ちであるならばきっと正そうとする。
彼の下に付くと決め、団結したあの日決めた覚悟が早々に試されそうになっていることが、無性に嬉しかった。
やっと、本領発揮して暴れまわることが出来る。
「調べてみるか。」
「ふふふっそういうと思ったよ。」
聖夜がほほ笑むと、理人は窓の外を眺めていた視線を教室内に戻し、唇に人差し指を当てて、黙ったまま皆に席に戻るように促す。
それに従い、皆が席に着くと直ぐに担任の海野がやって来た。
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