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もしかしたら今日が最後になるかもしれないと思いながら、馴染んだカフェの扉を押す。カランコロンと最初から変わらない鈴の音に、すべてはここから始まったんだなと感傷的になりそうになった。
「……凪」
静かに暗く沈んだ声で俺の名前を呼んだ狐塚さんと、その横には栗色の髪に小柄な男の子がいた。俺の姿を見て、くしゃりと今にも泣きだしそうな顔をする。
あぁ、この子が狐塚さんの弟で……彼が、会っていた人。彼が、好きになったかもしれない人。胸が、痛んだ。
きっと困惑しているであろう2人に、俺は意味もなく深々と頭を下げた。これから2人に話す内容は、暗く重い話になるだろう。俄かに信じられないだろう。それでも俺と、彼に関わってしまった以上、話さなければいけない。
頭を下げながら強く強く目を瞑り、今にも崩壊しそうなほど痛む心臓を、手を握りしめることによって誤魔化す。きゅうっと喉が燃え上がりそうなほど、熱かった。
「頭を上げろ、凪。上で話を聞くから」
「…はい」
狐塚さんの言葉にゆっくりと元の姿勢に戻し、2階へと続く階段に向かった狐塚さんの後を追う。まだその場から動かないのか、動けないのか分からない狐塚さんの弟に視線を向ける。
「あの、」
「…っあ!行きます!」
声をかけようか迷ったが、彼もいなければ話が出来ない。声をかけてみれば、ビクンと上から糸で吊るされたように背筋を伸ばし、階段を上がろうとしている俺の方へと向かってきた。
こちらに来ていることを確認して、俺も階段を上る。上がり切れば目の前にはもう見慣れた狐塚さんの家があって、ここで狐塚さんと過ごした時間が随分前のことのように感じた。
「座れ」
どこに座ろうか少し考えて、決めたのはいつものソファではなく、ソファとテーブルを挟んだ向かい側の床に直接腰を下ろした。狐塚さんと弟さんは、俺の目の前のソファに並んで座った。
話し合う準備は整った。後は、すべて俺のタイミングで幕が上がる。
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