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「あ、襟が変になっちゃってる」
なんだかじーっと見られている気がしたと思っていたら、そう言う事だったのか
「……っ」
冷たい指先が首筋に当たって一瞬、鼓動が走る
この人が馳せるもの全てが儚くて覚束ない
「爽太君って意外とおっちょこちょいだね」
「…揶揄ってます?」
うん。とクスクス笑いながら言われる
そしてその後、頭の上に手が置かれてポンポンと心地よいリズムで撫でられた
「でも人間っぽくて良いよね。完璧すぎるとなんか怖いから」
ちらりと善さんを盗み見るととても優しい顔付きでこちらを見ていた
いつから、その表情をしていたのだろうか
「善さんはそういうとこ、あるんですか?
…今のところ見当たりませんけど」
そう言うと優しい顔つきがすっと変わって微かに悲しそうに笑った
きっと善さんは気が付いていない
だって常に人の事を気にかけながら過ごしているに違いないこの人優しいは、人前で自分の弱みを見せるなんて真似しないはずだから
「欠点なんて沢山あるよ。物も買った時は綺麗だけど、直ぐに壊れたりする不良品があるくらいだからね」
自分のことをその“不良品”だと思っているのだろうか
たまに見え隠れする善さんの心が冷たくて、思わず目を背けたくなる
「…俺は、もし善さんのそういう部分が見られたとしても欠点だとは思わないです」
「あはは、爽太君は優しいね。俺の事を優しいって思うなんて」
じゃあ、どうしてそう言って笑う顔はそんなに悲しそうなんですか
そう聞けたら良いのに。
けど、なんでもかんでも聞いて心に踏み込むことが優しさだとは思わない
「…違いますよ。俺が優しいんじゃなくて善さんが優しいから集まるものも優しくなれるし、見えるものも優しい世界に見えるんです」
なんとなく、善さんは自分のことを無意識に卑下している気がしてならなかったから
だからそんな事をしないで自分の事を他人にするみたいに、もっと優しくしてほしい
聞かない代わりにその悲しみを少しでも失くすことが出来たら、と隠さずに素直な思いを言葉に乗せる
「…っ、本当に、君は」
そう言って片方の瞳からスッ、と一筋の水滴が流れ落ちた
それが木漏れ日に反射してキラキラして
まるで宝石が瞳から溢れたみたいだ
あまりに綺麗すぎるそれが涙だったと分かるまでに時間がかかってしまうくらいに
「…善さん」
濡れた頬を指先で拭うと、今で見られなかった善さんの弱さが少しだけ垣間見れた
この瞬間、俺はもう無視するには大きくなりすぎた想いに気が付いてしまう
「ごめん、年々涙もろくなっちゃって困ってるんだよねぇ」
「別に困ることじゃないと思いますけど。
だって、善さんが泣いて心配する事はあっても周りが迷惑に思うことはないんですから」
そう言うと、花が咲いたような笑顔を善さんは見せてくれた
「………っ」
声にならない音は、喉元を突っかかって心に響く
そしてそれは暖かい気持ちを広げるのと
切なく、ピリリとした痛みも残した
「爽太君…どうかした?」
自分の痛みには気がつかないで、人の痛みには直ぐに反応してしまう善さんに思わず苦笑いをする
「何でもないです」
……俺は、この人のことが好きだ
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