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「俺、めちゃくちゃ探し回ったんですよ。
…こんな所で何してんですか」
善さんは気まずそうに視線を逸らしたまま、問いかけには答えてくれない
風に揺れるサラサラとした黒髪が甘い花の香りを運ぶ
「…善さん、こっち向いてください」
いつまでも合わない視線がもどかしくてそう言うと、少しずつ顔が上げられる
その瞳は微かに濡れていて、唇も震えていた
「…本当だ…汗、かいてる」
首筋に冷たい指先が触れて、汗の通り道を撫でられる
その温度差に思わず体がビクつく
「あんなに酷いこと君に言ったのに、どうして俺の所に来るの」
名前を呼んでくれたのはさっきだけ。
また“君”と呼ばれてしまう
離されたままの距離に心が少し痛んだ
「…まぁ、確かに傷つきましたけど」
そう言うと善さんの瞳が苦しいくらい切なそうに歪んだ
…ほら、この人は優しいんだ。
優し過ぎては生きにくいだろうし、だからあんな事も俺に言ったに違いない
「……無くなるのが怖い…だから、大事なものは作らないっていうのは本当ですか?」
すると、動揺したように瞳が大きく揺れて、もうそれは肯定と捉えるしかなかった
善さんは頷く事もせずにただ、俺を見つめるだけ
その真っ直ぐな瞳は澄んだ漆黒で吸い込まれていくような、そんな感覚に陥りそうになる
「怖いと思うって事は俺のこと、大事に思い始めてるってことですよ、多分。
…
自惚れじゃ、ないですよね?」
切れ長の、少し垂れた瞳が大きく見開かれる
湿度を保っていたそれから雫が飛び出して
いつか見た、宝石のようなあまりにも綺麗過ぎる
「本当に…馬鹿だな、君は」
震えた声で、震えた体でそういう善さんの事を
樹の幹に預けたままの背はそのままに、その華奢な体を引っ張って胸の中に閉じ込める
「……爽太、君」
「はい…」
善さんは俺の名前を呼んでは、顔を胸に埋めて、確かめるように俺の顔を見上げた
時折不安そうに縋っては、それを何度も何度も繰り返した
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