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―――
車の準備が出来たと地下駐車場へと降りる間も張り詰めた空気、そして沈黙。
「あの、ごめ…なさいっ」
「ふっ。お前は自分を何だと思っているんだ」
「お、れ?藤堂さんのペット…」
藤堂さんが額に手を当て溜め息をつくと、スッと豊島さんが視界に入ってきた。
「竜くん、もっと自分を大事に思った方がいい。手術だって手遅れでっ…生きたくても助からない子もいる。でも竜くんは違う。まだ間に合う!生きることから逃げるのか?!」
いつも冷たい空気を纏っている豊島さんが少し声を荒げた。言葉さえ普通だが、怒りを含んだ顔は本当にヤクザなんだということを感じさせる。
「俺なんて…生きててもしょうがない人だからっ…。じゃあ…俺を売って下さいっ。健康な臓器をっ」
パンッ!
健康な臓器を今必要としている子にあげて、と言おうとした言葉は藤堂さんのビンタによって途切れた。
痛い…。思いきりではないにしろ、ビンタなんて今までされたことがなくて、イジメで暴力を振るわれたことはあるけれどそんな痛みではない。
きっと打たれた頬は赤く手形がついていると思う。
けれど、痛いと感じたのはそれだけじゃない。俺を打った藤堂さんの顔がツラそうに歪んでいた。
「お前の父親が命を懸けて守ろうとしたものをお前は捨てるのか。なぜそんなに死にたがる」
なぜそれを知っているの?まだ言っていないはずなのに。
ヤクザの情報網ってやつ?だったら凄いね。
「っ…。命を延ばしてもこれからの人生良いことなんてないっ。貴方に手術費用を返すために必死で働いて、いらなくなったら殺されるんでしょ?だったら最初からっ…」
「俺はお前を殺そうなど思ってない。それに手術費用は俺が自らの意思で出す。返す必要などない」
「俺なんかのために…なんでっ」
「っ…、なんで、か……それは、お前が手術を受けた後で話してやる」
今の間は何?そして言い終わると同時に握った拳を見つめているのはなぜ?
あ、そうか…。この人にもツラい過去があったんだ、きっと。
ひと悶着が終わり車に乗り込んだ俺たちはまたも無言。
そりゃそうだ。さっきの重いやり取りがあった後で明るく和やかな雰囲気なら逆に可笑しい。
「俺、男だし、何の取り柄もない。それでも邪魔になりませんか?」
女性ならともかく、男でしかも子供。特技があるわけでもない。顔だってイマイチ。
そんな俺がこうやって側にいていいの?
きっといつか、この人も…。そしてまた俺は1人ぼっちになるんだ。
「あぁ」
「1人になるのはもう嫌だ。1人ぼっちになるくらいなら生を延ばしたくないっ」
中学に入ってからずっと施設を卒業したら1人ぼっちになるんだと不安に思っていて、それが年々近づく度に恐怖だった。
1人で安いボロアパートを借りて働いて楽しみもなく生きる。そんな生活が待っている。
誰からも必要とされていない。生きる価値なんてない。
いつしか生きることは苦痛で、そんなとき癌が分かって病気で死ぬなんてと恐怖を感じる反面、孤独な人生から解放されると安堵もした。
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