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クリスマスプレゼント
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その日から俺は厨房には入れてもらえなくなった。
ガラス張りの壁から中を見るだけ。
でも、今思えばそれだけでチョコレートに
必要な工程や材料は覚えられたし、
こっそり厨房に入って匂いや触り心地で
十分チョコレートの世界を感じられた。
でも、どうして厨房に入ってはいけないのかは
小学生の俺の頭ではいくら
考えてもわからなかった。
*****
カランッカランッ
「ありがとうございました!」
嬉しそうに帰っていく女の子とお母さん。
今日はデコレーションケーキがよく売れる。
当たり前だ。だって今日は…
「わお。さすがクリスマスイブだ。
すごい早さで売れていくな…。
予約があるにしてもこれ追い付くかな?」
「リー!厨房にいなくていいの?
じいちゃんの怒られちゃうよ?」
リーはレジの横に立つと俺の頭を撫でなた。
フワリと甘い香りがする。
「大丈夫、去年先生が1人で全部まかなって
いた時よりは人手も2倍で助かるって
お墨付きだからな。…あれ、春、身長縮んだ?」
小学4年生も後半。
周りの男の子はまさに成長期真っ盛りだった。
俺は未だに整列の時の前習えでは
一番前で腕を腰に当てている。
身長の話は俺にとって禁句だった
「もう!縮んでないよ!!伸びてるもん!」
「本当か?」そう言いながらクスクスと笑うリー。
お客さんからは「本当の兄弟みたいね」
とまで言われた。
じいちゃんの洋菓子店は地元では
かなりの評判だから、クリスマスイブは
客足が途絶えることはなかった。
じいちゃんとリーは厨房で朝からずっと
ケーキ作りをし、俺は朝から接客をしていた。
ケーキはたくさん売れ、じいちゃんもリーも
俺も疲れていたけれど、お客さんの笑顔が
たくさん見れたから、俺は幸せな気持ちだった。
店を閉め、3人で小さなクリスマスパーティーを
した。去年はじいちゃんと2人だったけれど、
今年はリーもいるから俺は嬉しかった。
リーがいると、どんなことも楽しかった。
その夜、寝ようと思いベッドに入り、
電気を消そうとした時にコンコンと
部屋の扉が叩かれた。
「春?入るよー」
「!?」
返事をしてないのに入ってくるのは
リーの数少ない悪いところだと思う…。
「ぷっ、そんな驚くなよ」
クスクス笑うリーは入ってくるなり、
俺のベッドの端に座った。
「春に、クリスマスプレゼント!」
「俺に?」
そう言うとリーは俺に一冊の本を渡した。
分厚い革張りの本はズシリと重量感があり、
パラパラと中身を見ると、色んなスイーツの
レシピだった。そこにはたくさんの
書き込みがしてあった
「これは俺が小さい頃から使ってる
モノなんだけど…春にあげる」
「どうして?」
「…実は俺、春にはパティシエになって
ほしいんだ。先生はあんなこと言ってたけど…
春は才能があるよ。その才能を
殺さないでほしいんだ」
リーが言うには、じいちゃんは俺には
パティシエになってほしくないらしい。
理由は教えてくれなかったけれど、
とにかく反対しているから今も厨房に
入れないようにしてるんだって。
「春には、専門的に製菓の勉強をしてほしい。
もちろん、これは1つの選択肢として、
ってことだけ。ok?」
「うん。」
「それと…」
せっかくのクリスマスなのに、
リーは悲しそうに微笑みながらこう告げた。
「今、俺の実家が大変らしくて、
学校のこともあるから…来週の年が明ける前に
帰らなきゃいけなくなったんだ」
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