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あなたの幸せを願っています
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…どうやらリーは、桜の【さ】の字を
言う前に帰ってしまうらしい。
急に言われて固まる俺に、リーは
申し訳なさそうに苦笑いしながら言った。
「ごめんね春…本当にすぐだ、
1週間くらいしかないけれど」
「もう、リーと会えなくなっちゃうの?」
ポロポロと溢れる涙をこぼしながら言うと、
リーは俺をギュッと抱き締めた。
リーに抱き締められると安心するけれど、
もう、この感覚はなくなるんだ。
「…【ブリュンティエール】これが
俺が通っている学校。日本校もあるんだ。
日本校のレベルは世界クラスだし、
確かに入学倍率はバカなくらい高い。
入れるのはほんの一握りだ。
ても、春、春ならきっと入れる。そしたら…」
最後の言葉をリーは、
独り言のように、小さく呟いた。
「春がそこで頑張ればどんな形で
あろうともきっと会える」
どんな、形であろうとも
俺にパティシエの道を歩んでほしくないと
言うじいちゃんは反対するかもしれない。
両親は…もう顔もうろ覚えだけど
きっと困った顔をするだろう。
それでも、その頃の俺は、
リーの言葉に大きく頷くことしかできなかった。
リーは、そんな俺を見て、人差し指で
俺の涙を拭きながら小さく微笑んでいた。
****
12月30日
いよいよリーが帰る日になった。
東京駅まで送ってくれたじいちゃんは、
東京で丁度、パティシエが集まる会議が
あるらしく、そこからは俺が1人でリーを
成田空港まで見送りをすることになった。
じいちゃんは東京駅でリーをしっかりと
抱き締めたあと、固く握手を交わしていた。
JR成田エクスプレスで東京駅から成田まで
約1時間、その間はいつもと変わらず、
他愛もないことを喋っていた。
成田空港はたくさんの人で賑わっていた。
海外に帰省する人や旅行する人がこの時期は
多いんだ、ってリーが言う。
だんだんと搭乗の時間が近づいてくる。
俺は、ずっと笑顔でいた。
どんなに悲しくても、泣きたくなっても、
今日は我慢するんだった決めてきたから。
「春、今日は泣いてくれないの?」
少しからかうように微笑むリーには、
わかっていたのかもしれない。
「笑って、バイバイするって決めたから!」
「そっか…もうお兄さんだもんな」
また、いつものようにクシャッと優しく頭を
撫でられ、目に涙がたまり、視界がぼやける。
リーは、自分の手首から細い赤いレザーの
ブレスレットを外した。
それは、いつもリーが肌身離さず、
ずっとつけていたものだ。
リーは俺の手首を取ると、そこにリーの
ブレスレットをつけた。でも俺の手首より
大きくて、二重に巻かれた。
よく見ると、赤と茶色のレザーで…
チョコレートみたいに綺麗だった。
「リー、これ…「お守り。俺の宝物」
「そんな大事なものもらっちゃダメだよ!」
そう言うと、リーはクスッと笑い、
俺の両手をリーの大きな手で包み込んだ。
「あげないよ。春に預ける。だから、
それをいつか俺に返しに来て?」
「…うん!」
リーは満足そうに微笑み、
「I wish you every happiness…。」
と俺の耳元で呟きた後、たくさんの人が
いる出発ロビーで、リーは俺の唇に、
キスをした
リーはスッと立ち上がると、
何事もなかったかのように微笑み、
俺に背を向けて歩き出した。
「春!本当にありがとう。また、いつか会おう!」
搭乗ゲート前振り返り、大きく手を
振りながら笑顔で言ったリー。
俺も小さく振り替えした 。
また、いつか
その言葉を信じ、俺は必死に小学校の2年間
じいちゃんの所で学べるものは全て学んだ。
俺の原動力は全部、リーに会うためにだけだった
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