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ケンカ
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シュンにひどいことを言ってしまった。
あんなのただの八つ当たりだ。
カタンと真っ黒な墨がついたトレーを洗う。
しつこい墨、元はマカロンになるはずだった。
今日の授業はマカロンだった。
シュンのことを考えていたから、焦がした。
何て言ったらシュンは怒るんだろうな。
材料をムダにするな、って。
普段こんなミスをしない俺を
先生は心配したけれど、残ってやり直したいと
言ってもう一度やり直すことにした。
…シュンを見ても、どうしても避けてしまう。
それに、シュンに嫌われた。
そう考えると泣きたくなる。
「シュン…」
ポツリと無意識に名前を呟やくと同時に
ダンッッッ!!
いきなり扉が思いっきり開き、
恐ろしく無表情のシュンが入ってくる。
誰かが言っていた。
美人の無表情ほど怖いものはないと。
まさにそれだ。
「シュ…!」
シュンはズンズンと大股で俺の所まで来て、
俺のコックタイを掴み引っ張った。
勢いよく引っ張られるから前のめりになり、
シュンとほぼ同じ目線になった
「シュ、シュン…?」
「…歯ァくいしばれ。」
見てわかるやつだ。
今までにみたことがないくらい
怒っている。
「え、ちょっ!ストップ!」
殴られる…!
身構えると想像していた衝撃はなかった。
変わりに、パチンッと本当に軽く頬を叩かれる。
呆気に囚われていると、シュンはスッと
息を吸い、一気に全部を吐き出し始めた。
「お前が…天才パティシエだかリーの弟とか、
クッッッソどうでもいい!
【俺だけを見て欲しかった?】
最初からお前しか見てねーよ!ばーか!」
「ッ…⁉」
今までに、みたことがないくらいの大声で
捲し立てるシュンに俺はかなり動揺した。
「しまいにはなんだよ?今度は自分は
秀才だから天才にはなれないって言うのか?」
「誰が、そんな…!!」
思いあたる節があった
アイツ…!!
シュンに余計なことを…!
「知らねーよ。
俺が聞きてぇよ誰だよアイツは!」
「でも…本当のことだ。
俺は兄さんやシュンみたいに天才にはなれない。
所詮この学園でトップの成績でも、
世界中にはたくさんの才能を
持ったやつがいる…!」
「…だから?」
たった一言。本当に一言。
シュンのその一言で、何かが崩れた音がした。
「シュンには…わからないよ!
誰も俺自身を見てくれない。
兄さんごしに見る世間の目…!
自分ですら、自分を認められない。
いくら頑張っても…先には追い付けない!」
「誰よりも先頭を走ってるシュンに…わかる?」
こんな感情が自分の中にあったのかと、
びっくりした。でも今は押さえられない。
年下のこの子に俺はただただ自分の感情を
ぶつけることしかできない。
「わかんねーよ…そんなの。」
ポツリと言うシュン。
お互い一気に声を出したせいで息が切れていた。
「お前が…誰よりも頑張ってて、
誰よりも努力してて、誰よりも笑ってるのって…
それがお前の才能だろ。」
ハッと顔を上げる。
そんなこと、今まで誰にも
言われたことなかった。
ガッと胸倉を捕まれる。
「甘ったれんなっ…!!」
「…必死に、這い上がって、
転んでも立てよ!それでも追い付けなくて、
お前がお前自身を認めないなら!」
「俺がお前を認めるし、
お前の手を引っ張ってやるよ!!」
ハァ、ハァと息を切らしながら言うシュン
なんだろう、この気持ちは
今まで喉に詰まっていたものが、
サラサラと溶けだしている感覚。
干渉されるのが嫌いなシュンより、
俺の方がもしかしたら干渉されたく
なかったのかもしれない。
それなのにシュンは、
そんな壁を壊して俺の所に入り込んできた。
簡単に、俺の心に入ってきた。
真っ直ぐに俺を見つめる瞳
吸い込まれそうなほど、綺麗な瞳をしていた。
「お前…ちゃんと言えるじゃん。自分の気持ち。」
「ハハ…ほんと…叶わないなぁ……」
シュンは、わかってたのかな。
どこかで『完璧な自分』を作っている
俺がいたのを。
でも、そんなのお構いなしにチョコレートを
作るときと同じように真っ直ぐ気持ちを
ぶつけてきたシュン。
今は、とても清々しかった。
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