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輪の中心の太陽
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調理実習室の窓の外は
小さな雪がちらついていた。
今日は普段雪の少ないパリですら
雪が続いているね。校舎までの道も朝は
うっすらと雪が積もっていたから、
昼間は解けて、道が滑りやすくなるかも。
だから外を歩くときは気をつけてね。
と。
どこかの誰かさんが言っていた。
そのどこかの誰かさんは俺とは
反対の壁際に立っていた。
目が合うと手を小さく振ってくる。
「いいですか皆さん、
今日からいよいよ中間学科テストです。」
そう、中間テストだ。
それも2、3年生合同テスト。だから今、
エリックとは同じ調理室にいる。
合同とはいっても、どこの国も同じで、
学年ごとに固まるってのは同じらしいけどな。
「パティシエ学科、今年度の冬のテストは
…Mr.リホーウェン、聞いていますか?」
エリックに先生の厳しい声が飛ぶ。
何してたんだあいつ。
エリックは、周りでクスクス笑っている友人に
小突かれながら完璧な王子様スマイルで
先生に向かって優しい声で、
「すみません先生。
あまりに綺麗で見とれていました。」
エリックが厳かにそう言うと3年生側は
ドッと笑いの渦に包まれた。
先生も満更ではないように軽く口角を上げている。
そりゃ、あんなかっこいい奴に言われれば
世の中の大抵の女はそうなるよな。
少しだけ、モヤッとした。
「そ、そうですか。では今回の課題である
ビュッシュ・ド・ノエル…「あぁ、先生違います。」
「先生ではなくて、彼があまりに
綺麗なので見とれていました。」
エリックの綺麗な手のひらの先には
俺がいる。一斉に向けられるたくさんの瞳
は????
まてまてまて。
言葉の意味を理解して
カッと顔が赤くなるのがわかる
弁明する余地もなく、思いっきり
エリックを睨む。ニコニコと笑顔を返してくる。
今すぐその横っ面をぶん殴りたい。
先生は顔をヒクヒクとひきつらせながら
無理矢理笑顔を作って俺に向き直った
「いいでしょう…それではMr.スガワラ、
あなたのシェールに変わりあなたに質問します」
「ビュッシュ・ド・ノエルについて答えなさい」
突然降られる質問。でも、焦りはしなかった。
「作られたのは19世紀…フランス語で
ノエルが「クリスマス」、ビュッシュは
「木、丸太」で「クリスマスの薪」の意味。
基本的にヨーロッパ圏のクリスマスケーキ
として食べられます。」
そう言って先生を見ると、
先生はチラリとエリックを見ながらこう言った
「Mr.リホーウェン、アナタの優秀な
シェールのおかげで命拾いしましたね」
先生の悔しそうな言葉で3年生がまた
笑いの輪に包まれた。その中の中心にいる
エリックは、見ただけで、周りから愛され、
信頼されているのがわかった。
エリックは、どこにいっても
太陽みたいなやつなんだ。
でも、エリックは俺を見て、
口パクで「ありがとう」と言って、微笑んだ
その綺麗な笑顔が、あの中の誰かじゃなくて、
俺1人に向けられたと考えるとが、
すごく嬉しかった。
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