アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
萩谷を車から降ろしてからしばらくは、お互いに無言が続いた。まだむっとした様子の門井に、本宮が簡単に話しかけることはできなかった。門井が苛立っている時はあまり関わらないほうがいい。この辺りの警察官みんなが知っていることだ。
幸い門井はすぐに表情を柔らかくして、緊張に背筋を伸ばしていた本宮を見て苦笑した。「ごめんごめん」と軽く手を振りながら言う門井はいつも通りのように見えた。
「何もお前にまで怒鳴ろうとは思わないから、そんな固くならなくていいよ。後輩の前でみっともないところ見せたな」
「……いえ、そんなことはないです」
本宮は首を振り答える。「出来のいい後輩だ」と門井は軽く微笑んだ。
「……あの、門井さんは萩谷さんと知り合いなんですか?」
ここまでの2人の様子から見てみると、その間柄はただの知り合いに留まらないように感じる。門井は萩谷の家を知っているどころでなく、彼に生活費を与えているというのだから。門井は諦めたように鼻で笑った。
「……同級生だよ、小さい頃からの幼馴染って奴だ」
「同級生……って、同い年だったんですか?!」
本宮は思わず失礼極まりない発言をした。門井には年相応の貫禄もあるし、若々しく見えるような顔をしているわけでもない。しかし、そうであっても門井と萩谷が同い年だとは思わなかった。門井は大げさに肩をすくめた。
「おいおいそんなこと言ってやるなよ……まぁあんな感じじゃそう言われても仕方ないけどなぁ」
髪に交じる白髪や伸ばしっぱなしの無精髭から、萩谷は実年齢よりも老けて見られている。それを門井も分かっているらしく、きっちりと髭を剃った自分の輪郭を手のひらでなぞって眉根を寄せた。
「で、でも同級生ってだけであんな……」
「……ああ、生活費のことか。同級生で幼馴染だからって、わざわざ毎週家まで行って、ごみ出しや掃除をやってあげるのか、ってことだろ?」
「……えぇ、まぁ、はい」
人の話を盗み聞きしたようで何だか居心地が悪い。門井は本宮の疑問は最もだと言うように、優しく笑ってみせた。
「あいつは今働けるような状況じゃないからな、仕方なく世話してやってるんだ」
「働けなくなったんですか?」
怪我かなにかだろうか。普通に歩いたり話したりできる萩谷の様子を思い返す。本宮の不思議そうな問いかけに、門井は苦々しい表情で頷いた。
「何年か前から酒が手放せなくなって、そのせいで仕事はくびだし、新しく探してもすぐに辞めさせられる。……あれでも元は高校の教師だったんだぞ、あいつ。頭もよくて、生徒には好かれるいい教師だったんだよ」
全て過去形で語られる萩谷の経緯に、本宮は目を丸くした。
「……なんでそんなことに」
「まぁ、そうだな……原因は色々あった」
門井はハンドルをゆったりと回し、飲み屋の多い通りに車を向けながら、話を続けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 39