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飢えているのは血じゃなくて3
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ステージ前のパイプ椅子の一つに座ると、数メートル前方に榎野と女子親衛隊の姿が見えた。ステージの出し物に集中しようと頑張るが、やはり視線は榎野の方に移ってしまう。
左右に朱野と青家、後ろの席を黄葉に囲まれた榎野は戸惑いつつもそれなりに出し物を楽しんでいるらしい。だが、やはり置いてきてしまった恋人が気になるのか。周りを見渡そうとするが親衛隊に憚られて上手く抜け出せない様子だ。
(別に、俺は一人でもそれなりに楽しいんだけど。)
年の差があって付き合うのは、こういう時に厄介だなと思う。素直に『どうして俺にかまってくれないんだ』とは言えない。少なからず妬いている一方で、『そんなのは年上のすることじゃない』と妙な自制心が働いてしまう。
ヤキモキしている楠田の隣席に、佐々が腰を掛ける。
「楽しんでいる??」
「ぼちぼち。」
楠田が答えると、彼の視線を追った佐々がああ、と声を漏らす。
「…榎野のおかげで、軽音サークルの人数が増えたんだよ。彼のルックスは、本当に女性を引き寄せるよね。」
じろり、と楠田は隣にいる元バンドリーダー兼ボーカルを睨む。
「…あのハーレム状態はお前の策略か。」
佐々は睨まないでよ、と微苦笑を浮かべる。
「いやあ、僕はそれほどのことはしていないよ。ただ、次の軽音サークルの部長に『新入生勧誘の時は榎野を引きずってでも連れてけ』って言っただけ。集まったのは、彼女達の意志。」
「じゃあ、あの榎野親衛隊は軽音サークル一年の女子か…。」
ならば、榎野が邪険に扱えないのも納得がいく。基本、榎野は切り捨てると決めたらけっこう容赦ない性格をしている。
「誰かに取られちゃわないかって、心配になる??」
「…どうだろう。」
楠田は遠方の恋人を眺めながら、小さく下唇を前歯で噛む。
「同居する前までは、きっと『榎野は俺のだから』とか言ってあの子達の前でえげつないベロチューをキメて追っ払っていただろうけど。」
「…お前の性格も、かなりささくれていると僕は思うよ。」
「でも、今は自然と『そういう問題じゃないよな』って考えるんだよ。」
佐々が、楠田の顔を改めて見る。楠田の双眸は、強い光を放っていた。
「四六時中同居をしていると、色々相手を見直せるんだよ。例えば、榎野が靴下をそこらに放り出してしまう癖をあの子達は知らない。貝が苦手とか、けっこう記念日気にするとこあるとか…。俺だけが知っている榎野のいいとこ悪いとこ、いっぱいあんだよ。」
だからさ、と楠田は続ける。
「今は、嫉妬に駆られるだけじゃなくし、さらに言うと『あの子らと俺』の話じゃないと思うんだ。榎野はあの容姿だろ??これからも、たくさんの女の子に迫られる。」
つまりはさ、と年上の男は訥々と語る。
「もう、榎野個人の選択になるんだよ。俺とあの子と、どっちと人生歩きたい??ってなるわけ。俺を捨てるなら、選んだ子を離すなよ。死んでも幸せにしろよ、ってなる。」
同棲してみて、文化の違いや宇宙レベルの差を体験した。それでも、年上の男は榎野の手を離さず、ずっとここまでついてきた。
「今更の話だけど、俺達はもう『恋人同士』じゃない。男女でいう『夫婦』っつか…家族の域なんだ。」
「…ふぅん??ヤキモチは焼かないんだ。」
すると、そこで楠田はぷいと顔を背ける。
「…それは別。男としての矜持もあるしな。俺だって性的指向はノーマル寄りだし。色々な意味で腹立つわ。何だよ、アレ。鼻の下デレデレ伸ばしちゃってさ~。女の子にぐるりと囲まれてさ~!!どっちに羨ましがっていいのか、妬いていいのかわっかんねぇ!!」
「あはは、やっぱお前はお前だな。」
佐々に背をポンポンと叩かれ、楠田はぷくぅと頬を膨らませる。そんな元バンドメンバーに、佐々は声をかける。
「そんな素直になれない君に、とっておきの薬をやろう。」
席を立つ佐々に、楠田は後を追いかける。
「お、おい!!白摩さんはいいのかよ!!」
「ハルはあれで、僕がいなくてもしゃんと立っていられるよ。…それに。」
ここいらの居酒屋で一杯引っ掛けて帰るくらいならちょうど出演時間になる頃合だろう、と佐々はにっこりと笑ってみせた。
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