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「そういや、今年の空手部どうなんだよ」
科学の授業中。実験のレポートを纏めている途中、そんな話が耳に届いた。科学実験室は教室とは違ってグループで一つのテーブルを使うことになっており、いくつかの班が出来ている。話していたのは、丁度壮馬と同じ班の生徒達であり、内一人が慎吾と同じ空手部所属の生徒であった。
「どうって、新入部員の事か?今年はマネージャー希望の女子が多いな。慎吾効果で」
慎吾の名前が生徒の口から出てきて、自然と会話に耳を傾けてしまう。
「やっぱ女の子多いかぁー。可愛い子いたか?」
「まぁ何人かいたけどよ、どうせすぐ辞めるって分かってるから何とも思わねぇなぁ」
「何で?彼女作るチャンスじゃねぇか」
不思議そうにするもう一人の生徒に、空手部の生徒はきっと同じことを言われたのだろう、重めのため息を吐くと「あのな」と続ける。
「入部してくる女子は殆どが慎吾目当てばっかだから、俺達なんかに目なんかくれねーよ。つーか、慎吾が相手しないって分かったらすぐ辞めるんだからそんな女を彼女になんかしたくねぇ」
そう言い切った彼は再びペンを動かし始めた。聞いた生徒は「なんか悪い」と素直に謝り、止めていたペンを動かし始める。だが、まだ何か気になることがあるのだろうか。どこか落ち着かない様子の彼につい壮馬は顔を上げる。するとバッチリと目が合い、「そういえば」と口を開いた。
「立花クンって加藤と仲良かったよな?加藤って彼女とかいるの?」
「…いや、知らね」
彼女ではないが、お試しとはいえ君の目の前に加藤慎吾の恋人が居ますよ。とは口が裂けても言えず、壮馬は首を横に振った。出来れば、そっち系の話はこちらに振らないで欲しかったのだが、完全に目をつけられたようだ。相手ははそんな壮馬の気も知らず話す。
「立花クンでも知らねーかぁ。加藤とそんな話しねぇの?」
「や。全くしねぇな。女の子に興味ないみたいだし」
アイツ同性愛者だって言ってたし。と心の中で付け足しておく。というか、そんなに話したこともない相手に慎吾のことを聞かれるのが嫌だった。視線はレポート用紙に落としたまま適当に返答していく。
「急にそんなこと聞いてどうすんだよ」
お喋りが止まらない生徒に、空手部の生徒が尋ねる。確かにそうだ。何故急にそんな事を聞き出したのか。
「や、ちょっと女の子から頼まれてさ。何でもいいから、そういう噂聞いたら教えてって」
「自分で聞けよ」
「やーなんか加藤とあんま話したことないみたいでさ。自分で聞くのレベル高すぎて無理なんだと」
なんだそれ。と壮馬は心の中で吐き捨てるように呟いた。モヤモヤとした気持ちが壮馬の中でどんどん膨らんでいく。壮馬は今すぐ席を離れたい気分だった。去年までは、慎吾の噂話など幾らでも耳にしても何とも思わなかったのに、慎吾の事が好きだという女の子達の話などどうでも良かったのに、今は違う。
「おい、お喋りはそこまでにしてレポート早く完成させろよ。もうあと10分しかねーぞ」
まだ喋ろうとする生徒を止めたのは、幸い同じ班になった涼だった。もう残り時間が少ないことを知り、慌てて口を閉じて作業に取り掛かる相手を見て、涼は小さく嘆息する。正直、助かったと壮馬は思う。
「サンキュ」
「お安い御用」
小さく涼に礼を述べると、彼は歯を見せて笑った。そのまま時間は過ぎていき、あれから何も聞かれることなく授業は終わり教室へと戻っていく。だが、壮馬の中に残ったモヤは完全に晴れることはなかった。
※
「ー以上で空手部の説明会は終了です。明日から仮入部が始まるので、希望の人は体操着に着替えて飲み物とタオルを持って部室前に集合して下さい」
部長である3年生の先輩がそう告げると、入部希望だと集まった新入生達は荷物を持って教室を出ていく。次々に帰宅していく新入生達の後ろ姿を見て、部長はため息を漏らした。
「お疲れ様です」
「加藤か。資料のコピーありがとうな。予想より参加者が多くてびっくりしたよ」
「ですね。俺も満席になるなんて思わなかったです。…まぁ多分、明日には半分ほどに減ってるでしょう」
「だな。マネージャーは募集してないって言った時の女子の顔と言ったら。ちゃんとチラシにも記載してるっていうのに…」
「イケメンも大変だな」と部長は慎吾に苦笑すると、資料を纏めて部員達に今日は解散とだけ告げると、先に教室を出ていった。残った部員達もぞろぞろと教室を出ていく。慎吾もそれに続いて教室を出ようとした時だった。
「慎吾」
「…壮馬!?」
聞きなれた声が自分を呼び、そちらへ視線を向ければ先に帰っているハズの壮馬が立っていた。驚いて目を見開けば、壮馬は「よっ」と片手をひらりと上げ、続いて「お疲れさん」と言葉をかけた。
「お前、先に帰ったんじゃ…?」
「あー…まぁ、気にすんな。それよりも慎吾、このあと時間あるか?」
「え?…あぁ、まぁ、空いてるのは空いてるけど…」
「マジ?じゃあ久しぶりに飯食いに行こうぜ。涼に美味くて安い店教えて貰ったからさ」
そう言って壮馬は「早く行こうぜ」と歩き出す。まだ状況を飲み込めていない慎吾は、数秒遅れて壮馬の後を追いかけたのだった。
「…で、壮馬。先に帰ったんじゃなかったのか?」
「ん?」
壮馬に連れてこられたのは、最近学校近くに出来たというバーガーショップだった。学生の財布にも優しい上に、育ち盛りの男子高校生に嬉しいボリュームたっぷりのバーガーセットが売りの店である。実際、慎吾の目の前では頼んだ大きなテリヤキバーガーを美味しそうに頬張る壮馬がいた。
壮馬は親指についた照り焼きソースをペロリと舐めとると、「うーん」と首を捻る。
「何となく」
「何となく?」
先ほどから同じような質問をする慎吾に対し、同じく壮馬も曖昧な返答しかしない。本人曰く、「何となく時間を過ごして、何となく帰ろうかと教室を出たところ、偶然空手部の説明会が終わったのを目にして、何となく慎吾を待とうと思った」との事らしい。
だが、まぁいいか。と慎吾は思う。何はともあれ、こうして壮馬と一緒にいることが出来ているのだ。頼んだチーズバーガーセットに付いているポテトを一本摘み、咀嚼する。いい具合の塩加減で味付けされた揚げたてのポテト程、美味しいものはない。
「美味いか?」
「うん、美味い」
素直に頷けば、だろ!と壮馬は嬉しそうに笑った。
可愛い。と慎吾は口には出さないが心の中で呟く。自分の提案でお試しで付き合ってから約1週間。壮馬の気持ちはまだ分からないのだが、まだ付き合い続けているということは、少なくとも自分と恋人関係である事を嫌だとは思っていない。筈だ。
時折、2人きりになった時のみ手を握ったりして反応を見てみたりするが、壮馬は嫌がるどころか顔を赤くして可愛い反応をする。そんな反応を見るたびに、抱きしめてキスをしたい衝動に駆られるのだが、ぐっと我慢する。早く、壮馬の本当の気持ちを聞き出したいと焦る気持ちもあるが、彼が自分で気づくまで待つと慎吾は決めていた。
もきゅもきゅと口いっぱいにテリヤキバーガーを詰める壮馬に、慎吾は少しからかってやろうと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「壮馬」
「ん?」
「これってさ、デートって思ってもいいの?」
「げほっ!?」
慎吾の発言に、壮馬は盛大にむせた。耳まで真っ赤にして、大きく目を見開いて壮馬は慎吾を見つめる。きっと何も考えていなかったのであろう。だが、今慎吾にそう指摘され、ようやく意識したと言ったところだろうか。
そんな壮馬の反応に慎吾は思わず小さく吹き出してしまった。壮馬は両目にうっすらと涙を浮かべながら、「何笑ってんだよォ…!」と睨みつける。
「ごめんごめん。壮馬が可愛くて」
「どこがだよ!」
嘘つくことなく思っていた事を素直に述べれば、壮馬は更に赤くなってむすっとか唇を尖らせた。少なくとも壮馬は、今自分とデートしているということを少なからず意識している事だろう。自分は友達以上の存在だということを、こうして彼に気付かさなければいけない。1年程の付き合いでお試しはいえ恋人となってから約1週間。薄々分かってはいたが、どうやら壮馬は自分の気持ちに酷く鈍いらしい。
「何で今年は壮馬と同じクラスじゃないんだろうな」
「さぁな。先生達に聞けよ」
頬杖をつきながらそう呟けば、壮馬は素っ気なく返す。つれないなぁ。と慎吾はこっそりと苦笑を浮かべると、冷めかけのバーガーに手をつけた。
※
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