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去年の4月。満開の桜の木の下で俺達は出会った。
手を差し出し微笑むあの時の君はどうしようもなく綺麗で、どうしようもなく美しくて、どうしようもなく儚くて。一瞬で俺は心を奪われたのだ。
差し出された手をとれば、その時君は嬉しそうに頬を桜色に染めて笑ったんだ。
「ー…ま、壮馬っ」
「…ん?」
小さな揺れに意識が浮上する。ゆっくりと顔をあげれば、目の前で涼が「やっと起きたか」と飽きれたような顔をしていた。
「…あれ、俺いつの間に…?」
「いくら起こしても起きねぇから、いっそこれで叩き起こそうかと思ったぜ」
「オイそいつは勘弁しろよ」
そう言いながら涼が取り出した分厚い現代文の教科書を見て、まだ正常に働いていない脳が一気に覚醒した。どの教科よりも分厚い現代文の教科書で叩き起こそうとするなよ。死ぬわ。
「今…何してるんだ?」
「生徒会役員の当選結果の発表待ちだよ。体育館が今使えねぇから、放送で当選結果が発表されるって今朝言ってただろ?」
「あー…そうだっけ」
確か朝のホームルームにそんな事言ってたっけ。と記憶を辿る。教室を見渡せば、全員放送が始まるまで近くの席の人とお喋りをしている。担任の教師も特にそれを止めるわけでもなく、恐らく授業の提出物の採点を黙々と行っていた。
「どうせ慎吾は当選だろ」
「なー」
今から発表される当選者の中に、確実に入っているであろう慎吾の名前を出せば涼は頷いた。立候補した役職が慎吾と運悪く被ってしまった人は可哀想だな。と壮馬は心の中で合掌する。相手が慎吾じゃ到底勝ち目はない。なんせこの学校で一番の有名人なのだから。
「ねー聞いた?3組の…」
「聞いた聞いた!お祝い会でしょ?」
「え、なになにそれ。私知らない」
頬杖をついて放送を待っていると、隣に座る女子の話が聞こえてきた。3組といえば、慎吾がいるクラスである。自然と聞き耳を立て彼女達の話を聞いてしまう。
「なんか3組がね、慎吾クンに内緒で放課後お祝い会開こうとしてるんだって」
「お祝い会?」
「生徒会の役員の当選祝いだって」
「へー。いいなぁ。それに参加したらさ、慎吾クンとさりげなく仲良くなれるかもしれないじゃん!」
「だよね!3組のあの子、慎吾クン狙ってるって噂だし絶対攻めに行くと思うんだけど…」
「わかる!それに、あの子もさぁ…」
段々とヒートアップしていくにつれ、壮馬は途中で話を聞くのをやめた。涼も彼女達の話が聞こえてたのだろう、「女って怖いな」と小さく呟いたのを壮馬は聞き逃さず、苦笑する。
確か去年も同じ頃にクラスで慎吾の当選祝いのパーティのようなものを開いたのだ。企画したのは慎吾狙いの女子達で、それにムードメーカー的存在の男子も加わり半ば強制的に慎吾はそれに参加させられていた。慎吾が参加するということは、勿論壮馬も道連れであり、慎吾は壮馬の隣にピッタリくっついて全く離れなかったことを思い出す。
(今年も慎吾、それに参加するのか)
3組といえば、可愛い女の子達が結構集まっているクラスというのを聞いたことがある。そんな子達が、慎吾に好意を寄せている。
…あぁ、嫌だな。
自分の知らないところで、慎吾は可愛い女の子と話して、触れられて、笑っている。それがとてつもなく、嫌だ。
(嫌だ…?)
ふと、何故自分は嫌だと感じるのか。疑問に思う。何故だろう。少し思考を巡らせてみるが、答えは至極簡単でシンプルであった。
ストン。と自分の心の中に1度も引っかかる事無く答えは落ちてきた。たった二文字の答え。きっとそれは、ずっと前から壮馬のすぐそばにあったのだ。
窓の外で桜が舞う。残る花びらはあと少し。
4月が、もう終わろうとしていた。
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