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「んー…っ、ふぅ…」
シャープペンシルから手を離し、凝り固まった肩や背中を解すように大きく伸びをした。背もたれに体重を乗せれば、中学の時に買ったイスがギギッ。と微かな音を立てた。充電器をつけたまま放置していた携帯で時間を確認すれば、時刻は既に午後の10時半を過ぎている。壮馬は指を折って最後に確認した時刻からどれほど経過したのか数えた。
(2時間も集中してたのか…)
5月に入り、もうすぐ学生には嬉しいゴールデンウィークが始まる。だが、ゴールデンウィーク明けにはすぐに定期テスト週間に突入してしまう為、壮馬はこうして早めにテスト勉強を始めていた。まだ範囲などは発表されていないが、恐らく今回も大量に出題される課題を少しでも早く処理してしまおうと、テキストに手をつけていたのだが、2時間も続いていた集中力はすっかりと切れてしまい、どっと眠気が襲ってくる。今日はここまでと区切りをつけて、広げていたテキストを閉じた。
勉強机からベットへと移動し、枕に顔を埋める。すると、右手に持っていた携帯が微かに震えた。少しだけ枕から顔を上げてディスプレイを確認すれば、慎吾からメッセージが入っていた。
『ゴールデンウィーク、どこか空いてる?』
アプリを開けばそんなメッセージが届いており、心臓がドキンと大きく跳ねた。
(これって…デートだよな!?)
体を起こし、何故かベットの上で正座になってしまう。ゴールデンウィーク中の恋人からのお誘い。これをデート以外に何があるというのだろう。少し緊張した手で壮馬は普段通りに返信するようキーボードをフリックする。
『空いてふ』
(誤字ぃー!)
緊張してまさかの誤字である。慌てて『空いてるぞ』と送り直すが恥ずかしくて携帯から目を逸らしてしまう。こんな所、慎吾にでも見られたら間違いなく弄られるだろう。一人部屋で顔を真っ赤にしていると、また携帯が震えた。そろりとディスプレイを見れば、そこに映し出された文字は慎吾からの着信である。
「ふぁ!?」
驚いて思わず拒否ボタンをタップしてしまう。プツン。と途切れた画面に真っ赤になった顔をサァッと真っ青にして壮馬は慌てて電話を掛け直した。ワンコールですぐに慎吾は電話に出る。
「も、もしもし?」
「もしもし?壮馬?ごめん。急に電話かけて」
「や、俺こそ間違えて切ってしまって悪い」
「ふふ、大丈夫。多分そうするだろうなって予想はついてたから」
「〜っ!慎吾、お前からかって…!」
「アハハ、ごめんって。怒るなよ」
電話の向こうでくっくっく。と笑みを噛み殺す慎吾の様子が容易く想像出来る。少し大きめのため息を吐けば、「で」と慎吾が本題を切り出す。
「ゴールデンウィーク、どこか空いてるところある?」
「あ、あぁ。まぁ、空いてる」
「じゃあ、デートしよっか」
ストレートにそう告げた慎吾に壮馬は再び顔を真っ赤にさせた。付き合い始めて気づいた事なのだが、どうやら慎吾はかなり直球にモノを言ってくるタイプなようだ。今だってそうだが、手を繋ぎたいだの触れたいだの、とにかくドストレート。だからいつも壮馬の心臓はバグバクと五月蝿く鳴っている。そろそろ破裂するのではないかと心配すらするほどだ。
「お、おぅ…別にいいぞ」
「良かった。いつ空いてる?俺、日曜だったら部活休みなんだけど」
「俺も日曜なら大丈夫だ。で、どこ行くんだ?」
「最近公開された映画見に行かない?壮馬、見に行きたいって言ってただろ?」
着々とデートプランが立てられていく。電話越しに聞こえてくる慎吾の声はどこか嬉しそうだ。それが何だか擽ったくて、自然と笑みが零れてしまう。
「ん。じゃあ日曜にいつもの駅に集合ってことで」
「オッケ。…あのさ、何で急に電話してきたんだ?」
予定が出来たところで、壮馬は少し尋ねてみた。「んー」と慎吾は少し唸ると、「文字打つの面倒だったから」と答える。
確かに、長文打つのは疲れるか。と壮馬が納得しかけたその時、「でも」と慎吾の声がそれを塞ぐ。
「本音は壮馬の声が聞きたかったから」
「な…!」
「じゃ、おやすみ」
「っ!あ、しんごっ、…切れた」
ブツっと無情にも切られた通話に、壮馬は大きく息を吐いてくしゃりと前髪をかきあげた。顔は勿論なのだが、耳まで熱い。
「不意打ちでそりゃねーわ…」
自分以外しかいない部屋でポツリと壮馬は呟き、携帯に視線を落とした。
※
壮馬との通話を切り、慎吾は一人クスリと笑みを浮かべた。電話越しでも容易く壮馬が顔を赤くしているのが想像出来た。メッセージでも誤字をしてきた辺り、相当自分の誘いに慌てた筈だ。その様子を見れなかったのは非常に残念なのだが、想像するだけでも愛しく思うのは最早病気なのではないだろうか。
(随分と惚れ込んじゃったもんだ)
去年の4月の入学式で一目惚れした彼。確実に自分のモノにする為に、じっくりと時間をかけて距離を詰めていく筈だった。だが、進級して壮馬とクラスが離れてしまい、涼という友人が出来てから慎吾はかなり焦ってしまった。1年生の時は自分が常に隣にいるようにしていた。そのお陰か周りは慎吾と壮馬を必ずセットとして認識するようになり、壮馬も慎吾が傍にいるのが当たり前となっていたのに。今や周りの認識は壮馬と一緒にいるのが自分ではなく、涼になっている。
涼が壮馬に気があるかどうかと問われれば、「ない」と断言してもいい。良き友人としてしか見ていないだろう。だが、それでも慎吾は嫌だった。
壮馬の傍に立っているのは、自分ではないと嫌だ。その場所を誰かに取られてしまう。
そんな焦りから、予定よりも早く慎吾は壮馬に自分の想いを伝えてしまったのだ。これは、賭けであった。
幸い慎吾は賭けに勝った。そのお陰でこうして幸せな日々を過ごしているのだが。
(独占欲が凄いな…俺)
募りに募らせた想いが溢れて、零れてしまいそうで慎吾は自嘲気味に笑った。校外学習の班決めの話で、涼は壮馬を誘い壮馬はそれに乗った。二人はただの友人。そう分かっている筈なのに、どうしても分かることが出来ない自分がいる。壮馬は自分のモノで、自分だけの壮馬で、誰にも渡したくない触れられたくない。一層の事、そう宣言したい。
だが、こんな自分の一面をもし壮馬が知ってしまったらと思うと、怖くて仕方が無い。
(…やめよう、こんな事を考えるのは)
首を振って思考を振り払う。時刻はもうすぐ午後の11時を指そうとしていた。明日も朝練がある。明日に備えて寝なければと携帯の電源を落とそうとした時だった。軽快な通知音がなり、壮馬からメッセージが届いた。
「!」
アプリを開いてメッセージを確認し、慎吾は一瞬目を見開いて笑みが浮かぶ。
『俺もお前の声聞けて嬉しかった。おやすみ』
きっと、先程の不意打ちの仕返しだろうか。やけに素直なそんなメッセージに、慎吾はニヤける口元を誰も見ていないというのに右手で隠した。
俺の恋人は、こんなにも可愛い。
(あぁ、ほんと、好きだな)
少し鈍くて純粋で素直で、とてつもなく愛おしくて可愛らしい。
こんな壮馬を知るのは、自分だけ。
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