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contact【接触】
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―会長ー
耳に入ってきた言葉ははっきりとしたもので、俺の聞き間違いだということはなさそうだった。「はるの」と呼ばれた人は優等生君のことを「会長」と呼び、彼はその名称を呼ばれた後にほんの少し悲しそうに笑ったのだ。
―会長、って生徒会長のことか?うっわ、マジかよ。
生徒会長とかやっていたなら期待を裏切らなくて笑える、って思ったけど……本当にそうだったのか。
良い意味でも悪い意味でも、期待を裏切らない奴。
前者は「やっぱりな、見た目通りだし」という意味で、後者は「つまんねえの、こいつは生きてて楽しいのだろうか?」という単純な疑問。
知らない人間にここまで言われたくないよな…?
分かってはいるけれど、この優等生君を見ていると苛つきが募ってしょうがない。自分でも制御できない気持ちの塊が心の中に募っていって、どうしようもない。
「…はる……、行き…しょう、…」
雨音に掻き消されているせいで明確な声は聞こえなかったが、大体は何を言っているかを理解出来た。
恐らく優等生君は「行きましょうか」と言ったんだと思う。
彼らのいる方向にじっと目を向けてみると、精巧で美しくて儚い笑みを互いに浮かべながら静かに歩いて行ってしまうのが見えた。
水溜まりに二人の足がぴちゃんと入って、それに乗じてピチャピチャという雨の日独特の歩く音が聞こえてくる。
それはどこからどう見ても、仲睦まじい様子だった。
けれど、俺の視線は以前と同様多田の表情に釘付けになる。
「…ほら、泣いてる…。やっぱりあいつ…」
「はるの」という人に目配せをしてる多田の瞳は、蜃気楼が霞んだように小さく揺れていた。作り物のようなその瞳が人間の感情を含んで、けれど彼は「本当」を見せることができないから、感情を必死に隠している……まるで、そんな。
普通じゃ到底気が付かないようなほんの一瞬の間、多田の心の奥底に隠された暗澹たる塊がありありと見えてしまった。遠くから見ている筈なのに、内部にしまい込まれた悲しみが不思議と分かってしまう。
なんでだよ、どうして、分かるんだ……?どうして……
全然面識のない人間のはずなのに、何故か気にかかって仕方がない。
「…チッ…」
俺の大きな舌打ちは、大きな雨音に吸い込まれていった。
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