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※Rain【雨降る夜】
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「…っ、…ん…うぅ…っ…、ぅ、」
性的快感を得ている声と、悲しみに溺れている声が混ざり合う。一瞬だけキスすることを止めて多田の表情を見やると、彼はボロボロと涙を流しながら泣いていた。
嗚咽は低く掠れていて、多田がどれだけ苦しんでいるのかがひしひしと伝わってきた。
震えた唇と上気した頬、そして真っ赤に充血した瞳。この世に存在する苦しみを全て抱え込んでしまったのでは?という程に彼の姿は痛々しかった。
俺は露わになった華奢で到底男のものとは思えない二の腕を、雫のついた指でさらり…、と撫でつける。たったそれだけの行為なのに、深い口付けと愛撫によって敏感になってしまった多田の体はピクン、と淫らに反応した。
「…っ、…やめて…っ、」
甘く掠れた声は、俺の脳裏に直接響いてくる。
やめて、と言われるともっと苛めたくなってしまう。母親に愛されたいという欲望を完全に忘れさせるくらいに、快楽と背徳感に溺れさせたい。
「偽物の愛の為に、自分を捨てる代償を払う必要はないだろう?」
俺が多田にずっと伝えたかったこと。
始めて多田を目にした時から、胸の中にもやもやと渦巻いていた疑問。
…そうか。俺が彼に言いたかったのは、これだったのだ。
優等生の姿を演じて何になる?
ちっぽけな偽物の愛情を受け取る為だけに、こんなボロボロになるほど苦しんで。自己犠牲もいい所じゃねえか。
「……なあ?…樹」
はっきりと彼の名を呼ぶと、二の腕の痛々しい切り傷に先ほどよりももっと優しく柔らかい接吻をした。
「……い、や……っ、見ないで……!」
俺の手首に多田の手が伸ばされる。俺はそれを静かに払いのけると、抵抗出来ないように両手首を抑え込んだ。
「こんなに自分を傷つけて、よく壊れなかったな」
傷のほとんどは過去につけられたと思われる古傷だったけれど、二の腕の上部にある幾つかの傷は蚯蚓腫れのものもあれば、瘡蓋になりかけているものもあった。
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