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本当に突然の知らせだった
漸く入院生活ともお別れだ
退院したら和歌とどこに行こう
嬉しそうな顔が見たいな
やはり、お寿司がいいかな
「冬矢、頑張って下さい」
「ありがとう、和海」
そして俺は待ちに待った角膜移植をした
麻酔が切れても和歌の気配が無い
今日は遅いな
早く和歌に知らせたい
「失礼します、検温を」
「和歌はどうした」
「朝連絡が入り、熱が出たのでしばらく来れないとの事です」
「熱?」
「はい、詳しい事は私には」
「もういい」
和歌は大丈夫なのか?
でも、熱なら仕方が無い
こんな事なら、連絡先を聞いておくべきだった
「ごくろうさまです」
「いえ」
「ではこれは報酬です」
「ありがとうございます、あの」
「何ですか」
「和歌君は?」
「知る必要はありません」
「・・・・はい」
それから一週間
漸く包帯を取る日がやって来た
「冬矢、長い間お疲れ様でした」
「和海には感謝しているよ」
包帯を取ってもらい、ゆっくり目を開けた
今まで感じなかった光を感じる
「ではゆっくりと目を」
本当に見えるのだろうか?
でも、見えなくてもいい
和歌がいればそれでいい
ぼやけた視界が広がる
そして、ぼやけた視界は徐々にはっきりと景色を映し出した
「見える」
「成功ですね」
「和海、本当に感謝する」
「鏡を見て見ますか?」
「ああ」
渡された鏡を持ち、自分の顔を映した
瞳の色も元通りに戻っていた
「大変だったろ?」
「そうでもありませんよ」
「えっ?」
「とても身近に同じ瞳を持つ人間がいたので」
その言葉を聞いた瞬間、震えが止まらなかった
まさかだろ・・・でも和海は知らないはず
「身近と言うのはどう言う事だ?」
「冬矢がよく知っているのでは?」
「・・・・・・・お前、まさか」
「本当によかったです」
鏡が床に落ちると同時に、和海を殴りつけていた
「冬矢?」
「お前・・・・まさかこの目は・・・冗談だろ?」
「よく似ていましたね、燕羽に」
思い切り、冷水を浴びせられたようだった
体の震えが止まらない
燕羽を殺した報いがこれなのか?
「和歌はどうした」
「和歌と言う名前でしたか」
「どこにいる」
「今頃、日本中にいるはずです」
「どういうこ・・・・・お前、まさか」
「角膜以外は必要無いですよね」
「そんな事は聞いていない、和歌をどうした」
「何故そんなに怒るのですか?私は何も聞いていない話ですよね」
「・・・・・・・・・・」
「紹介されていたら手は出していません、でも冬矢は何も言わなかった」
「和歌・・・嘘だろ・・・・・和歌っ!」
「私に隠し事ですか?でももう遅いですね」
「本当に殺したのか」
「臓器を待っている人達はたくさんいますし」
「ふざけるなっ!!」
頭がおかしくなりそうだ
この瞳は和歌の瞳
俺は一生後悔し続けるのか
この瞳を見る度に思い出すのか
「冬矢」
「一人にしてくれ」
「わかりました」
和海は知っていたのだろうか
それとも本当に知らなかったのか
知り合わなければ、心がこんなに痛む事も無かったのに
もっと、話をしたかった
もっと、笑顔を見たかった
だけど和歌はもういない
抱きしめた感触がまだ残っているのに
もう二度と会えないなんて
こんなに辛い事があるだろうか
二度と、鏡は見たくない
「ごめん、和歌・・・絶対許してはくれないよな」
俺と知り合わなければ、死ぬ事も無かったのに
こんな結果になる事がわかっていたら
絶対声などかけなかったのに
今頃涙が溢れだした
でも、この涙は和歌の涙だ
何もわからないまま、殺された和歌の悔し涙
もう、生きる希望も無い
生きていても辛いだけ
「和歌・・・・・」
窓を開けると、激しい風で髪が揺れた
「和歌、俺はお前の瞳を持ったまま生きて行く自信が無い・・・本当にすまない・・・和歌」
窓から身を乗り出し、空を見上げた
久しぶりに見た空はとても綺麗な色だった
「すぐ行くから」
今の俺には、このまま生きて行く選択は辛すぎた
だから、この辛さから解放してくれ
そのまま手を離し、窓から飛び降りた
堕ちながら最後の瞳に映るのは
和歌の笑顔だった
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