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「で…っ、電話でしか話していないはずなのに、どこで見かけるんですか!?」
「電車だよ。…営業は、直帰の時もあるから帰宅時間もまちまちでさ。んで、ある時早めに電車に乗ったら、そこにお前とここの社員さんがいて。」
一冬は、いつも単純なヘマをする新人を見つけた。皆からどつかれながらも、ニコニコと明るい笑いの絶えない奴だと思った。
「でぇ、何度か電車が一緒になってさ。その…遠目から見ていたんだよ。」
「え…。」
ドキリとする匿間。
「言っとくが、オレの恋愛対象は男だ。…っつか、お前だ。」
「ふぇあ!?」
仰天する匿間。
「え!?あ!?…じゃあ、僕は数時間前までけっこう貞操スリリングな生活をしていたんですか!?」
「当たり前だ!!ったく、人の気も知らないで…。無防備に床で寝こけるわ、身体を拭くなんて言ってくるわ…。お前が無職でかなり切羽詰っている状態だって知っていなかったら、今頃オレは…。」
「う゛ん゛!?…なんで僕が無職って…あっ!!」
会社の電話担当が変わったからな、と一冬は返す。
「ずっと休んでんのかと思って心配していたから、つい四日前に聞いちまったんだよ。会社に来ないし連絡も通じない。みんなで無事か毎日連絡入れ続けているけど、未だに返事がこないってさ。」
「皆さん…。」
早く会社に来ないか、と急かされる電話だとばかり思っていた匿間は、何とも言えない温かい気持ちに胸が満たされていく。
微笑む彼とは正反対に、一冬は貧乏ゆすりを激しくしていく。
「…本当にお前ムカつく!!もう会えるかわかんないって、失恋してやけ酒して家に帰っていたら、なんかコートだけ羽織って全裸で公園に落ちているし!!『買って下さい』とか抜かすし!!タダでオレん家に来るし!!」
「い、一冬さん…。」
「酷い目合わせてんのに居座るし!!出がけの『いってらっしゃい』とか出来立てをフーフーして冷まそうとか、新婚ごっこみたいなこといっぱいしてくれるし!!嬉しい反面複雑だったっつの!!…だから、その、つまりだなっ!!」
ガバッと顔を上げた一冬は、荒い息のまま相手に告げる。
「今までのこと全部忘れて、オレと付き合ってくれよ!!」
「…僕は、嫌です。」
どこかで鳶が鳴いたらしい。ヒューヒョロロ、と何とも間抜けな声が聞こえてきた。
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