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3.決意
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ロックウェルが物思いに耽っていると、そこへカツカツと靴音を高鳴らしながら部下の少女がやってきた。
「ロックウェル様。報告書をお持ちいたしました」
そこに立つのは優秀な王宮付き白魔道士であり、今回水晶化されてしまった女官吏の妹―――シリィだ。
そんなシリィにロックウェルはそっと視線を向け、続きを促す。
「ご苦労。仔細は?」
「はい。現場に残された魔力の痕跡から四方八方手を尽くし捜索致しましたが、途中で幾重にも惑乱の魔法が掛けられており、これ以上追跡することはできず…」
「…そうか」
この一年―――探しに探した結果がこれだ。
全てが徒労に終わってしまった。
これ以上追いようがないとは――――。
淡々と報告をしたものの、この絶望的な状況に彼女の表情には悲壮なものが浮かんでいる。
追跡ができないのなら姉を助けてやることは叶わない。
諦めろ―――と、そう言ってやることしかできない自分が情けなかった。
魔道士長などと呼ばれてはいても自分にできることなどたかが知れている。
(そう言えば追跡は元々あいつの得意分野だったな…)
そこでふとまた思考が逆戻り、自分が封じた友を思い起こさせた。
黒魔道士として魔力も高く優秀なクレイ。
けれどそれで上に取り入って出世するなど絶対ゴメンだと言い放ち、仕事は自分が気に入ったものだけを引き受けるようなマイペースな奴だった。
(今…ここにクレイがいたら…)
あの時―――彼を封印していなければ、自分はクレイの元へ追跡の依頼をしに行ったことだろう。
彼には惑乱の魔法など大した意味もないのだから。
以前「あんなものはパズルと一緒だ」などと言って笑っていたくらいだから、きっと力になってくれたに違いない。
今更ながら後悔だけが身を苛む。
「…シリィ。姉の…サシェの件について、正直私にはもうどうしてやることもできない」
「…はい。わかっております…。ロックウェル様には色々手を尽くしていただきましたので、どうかこれ以上は…」
気にしてくれるなと言いながらも苦痛に耐えるような表情をする少女に、それでもロックウェルはその言葉を紡がざるを得なかった。
「諦めろとしか言えない私を…どうか許してほしい」
その言葉にシリィの肩がびくりと震え、俯きながらただただ声を殺して涙をこぼす。
そんな姿に、自分があの時クレイを封印さえしなかったなら助けてやれたかもしれないのに…と胸がまた痛んだ。
だからこそついその言葉が口からこぼれ落ちたのかもしれない。
「…お前がその命を賭けると言うのなら、もしかしたら望みはあるかもしれないが…」
その言葉にシリィの顔が勢いよく上げられる。
「そ、それはどういうことです?!なんでもします!姉様が助かる道が一縷でもあると言うのなら、どうぞ私の命をお使いください!」
そこにあるのは泣き濡れた顔にある真剣な希望の眼差し。
その顔を見て、ロックウェルはその重い口を開いた。
「私が封じた黒魔道士の封印を―――解こうと思う」
クレイは自分を恨んでいるだろうか?
殺したいほど憎いと思っているだろうか?
正直彼の封印を解いた時に何が起こるのか、想像もできない自分がいた。
怒りで魔力を暴走させるかもしれない。
それとも彼の使い魔達がここぞとばかりに自分の姿を見た途端殺しに来るかもしれない。
本来なら自分が一人で封印を解きに行くのが筋だろう。
けれど、ロックウェルは彼女の姉を助けてやりたかった。
ただ彼に殺されに行くだけなら意味がないのだ。
だから彼を何とか落ち着かせ、彼女の口から彼に依頼をさせ、協力を乞いたかった。
「もし私が殺されてもお前は私怨に囚われずあいつに助けを乞え。それだけが、ただ一つの…サシェを救う道なのだから―――」
力なくも覚悟を決めた眼差しで告げたロックウェルに、シリィはただ小さくこくりと頷いた。
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