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102.アベルの正体
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「クレイ。大丈夫か?」
ロイドが楽しげにそう言ってくるのでクレイはその気持ちのままクッと笑った。
「お前の前だと取り繕わずに済むから楽だな」
「まあそうだな。折角ロックウェルに酔っていたのに、あれは気分も悪くなるよな」
実に分かりやすいと言ってくるロイドに、そうなんだとクレイが言う。
「だが残念だな。蔓で口内を犯されて苦しげにするお前に唆られたから、口でやらせてみたいと思ったのに」
「ロックウェルが指であんな風にしてこなかったら勢いでやってやってたかもな」
蔓を口に突っ込まれるよりもお前を口でしてやる方がずっといいと言い切ったクレイにロイドがククッと笑う。
「自暴自棄なお前もなかなかいいな」
「あのアベルという魔道士は本気で大嫌いだ!」
そうやって怒るクレイにロイドはさらりと告げた。
「見た所あれはトルテッティの王族だな。お前狙いなのが丸わかりだ。近づかないに越したことはない」
「王族?!」
「ああ。ここにつけていた肩章が独特だったからな」
その言葉にクレイの目が鋭く光る。
トルテッティは白魔道士国家だ。
その為黒魔道士の地位は低い。
それが何故自分を狙ってくるのか…。
「報復か?」
以前アベルの魔力を奪ったことに対するものなのだろうか?
けれどそれならそれで迂闊に自分には接触せず、事を慎重に運びそうなものだが…。
「調べてみるか…」
そう呟いたところで眷属がざわりと動いた。
【クレイ様。既にレオとバルナが動き、使い魔も多く放ちました。じきに詳細は分かりましょう】
「コート」
【クレイ様があの様な目に合わされて大人しくしている我らではございません。徹底的に調べてまいりますので暫しお時間を下さいませ】
「助かる」
そんなやり取りを見守った後、ロイドがクレイを誘う。
「どうせロックウェルは夜まで仕事だろう?それならこの後ソレーユで一緒に仕事でもしないか?ライアード様が午後から視察に出るんだ。その護衛だが、気分転換くらいにはなるだろう」
「まあそれくらいならロックウェルも怒らないだろう」
二人きりじゃないしと言ったクレイにロイドが嬉しげに笑う。
「決まりだな。今日の視察は鉱山の方だから面白いと思うぞ」
「へぇ。黒曜石か?」
「いや。鉄鉱石だ」
そう言いながら二人は仲良くソレーユへと向かった。
***
その頃ロックウェルはリーネを先に王宮へと帰し、アベルと対峙していた。
「随分嫌われてしまったな」
助けてもらえて良かったとアベルがロックウェルに礼を言うが、ロックウェルとしては最後のクレイのセリフに気が気でない。
折角ロイドと引き離せた筈だったのに、これではまた元の木阿弥だ。
あの様子では文句を言いに行くことすらできない。
正直この男のせいでクレイがソレーユに行ってしまったらとても許せそうにないとも思った。
「……それで?クレイをあんな目に合わせた目的は?」
「いや。ああでもしないと逃げられそうな気がしてな…」
加えて口を塞がないとどんな魔法を使われるかわからないから、ああしただけだとアベルは悪気なく言ってくる。
「それで却って怒らせていては世話がないが?」
「いや。以前会った時にお前に随分調教されていそうだと思ったから、こういう方が好むのかと思ったんだ」
「…クレイのアレは私限定だ」
人の調教結果を横から奪い取ろうなどふざけたことを言うにも程がある。
「なんだそうなのか」
それは残念とアベルはロックウェルに一応理解を示した。
「それよりも王宮ではなくクレイを訪問した理由を教えてもらおうか」
そんな言葉にアベルが素直に口を開く。
「ああ。今度の交流会にクレイも是非参加してもらいたいと思ってな」
「何の為に?」
「もちろん、あの珍しい魔法をうちの魔道士達にも教えてやって欲しくて」
「……。今回の魔道士交流会は王宮魔道士の交流会だ。クレイは関係ない」
「ははっ!そんなはずがないだろう?あの紫の瞳はアストラスの王族の証だ。加えてハインツ王子の教育係も務めていると聞いた。それならば参加するのは簡単なはずだ」
そんな風に口火を切ったアベルにロックウェルはギリッと歯噛みした。
この男にはどこまでバレているのだろう?
転んでもただでは起きないものを感じて、ロックウェルは警戒心を露わにしてしまう。
「クレイを王宮のことに巻き込むな」
「…巻き込んでいるのはお前の方ではないのか?ロックウェル。恋人の地位を利用しているんだからな。ああ。それよりも、もしかして今の地位はそれを利用して手に入れたものなのか?それならすまなかったな」
そう言って笑ったアベルにロックウェルは怒りを覚えたが、口を開くよりも前にヒュースと自分の眷属達が動くのを感じた。
【ロックウェル様を侮辱することは許しません】
【慈悲の白魔道士とは思えぬ腐った輩ですね。早々に立ち去りなさい】
【別に我々が相手をして差し上げても構わないのですよ?】
そんな風に威嚇しにかかる三体にロックウェルは待てと告げた。
「…正直そちらの考え方は理解しかねる。私も暇ではないからこのまま失礼させてもらおう」
「返事をまだもらっていないのだが?」
「クレイは今回参加させるつもりはない。この件に関しては以上だ」
「そうか。残念だ」
そんな声を聞きながら、ロックウェルは自分の眷属へと頼んで影を渡った―――――。
「…なるほどな」
黒魔道士でない自分が眷属経由で影を渡るとこういう風に魔力を持っていかれるのかと、ロックウェルはしみじみ感じていた。
軽い倦怠感だが慣れれば平気そうだ。
けれど使いすぎには注意が必要そうだと感じた。
回数を重ねると回復魔法をもってしてもひどく疲れそうな気がする。
(とは言え、少しは慣れておいたほうがいいだろうな)
すぐにひょいひょいと出掛けたり逃げたりするクレイを追うにはその方がいいだろう。
【ロックウェル様。一先ず今日のところはクレイ様はソレーユに避難された様子ですので、夜までにサクサクとお仕事をお片づけください】
自分の眷属の言葉に驚いて、思わずヒュースへと話しかける。
「ヒュース!本当なのか?!」
【…本当でございます。ただ、ライアード王子の護衛との事なのでロイドと二人きりではありませんのでご安心を】
それほどアベルから逃げたかったようだとヒュースがため息をつきながら教えてくれる。
【現在眷属達がトルテッティの内情を探っているようですし、ロックウェル様はどうぞ心安らかにお仕事にお励みください】
夜にはちゃんと戻るからとヒュースは言ってくれるが、ロイドに隙を与えてしまったのが悔しくて仕方がなかった。
【大丈夫でございます。ロックウェル様がクレイ様をあのように満足して差し上げた事で、クレイ様に隙は無くなりましたしね】
あれはいい判断だったと言うヒュースの言葉に一応納得し、今日もまた貪ってしまいそうだと深いため息が口をつく。
(クレイは本当に放っておけないな…)
あの時、クレイの言葉に一番理解を示したのは自分だろうと思う。
自分の魔力にこっそり浸ってくれていたのは嬉しかったし、自分を好きでいてくれているのもとても伝わってきた。
それをアベルが台無しにしたせいであれ程怒ったのだ。
クレイの自分に対する愛情を疑う気は一切ない。
(そうだ…。あいつはただ色々ズレているだけで――――)
どうして言ったそばからロイドと二人きりになるのか…。
どうしてそのままソレーユについて行ってしまうのか…。
自分がクレイを上手く調教しているように、ロイドも着実にクレイを上手く懐柔していっているのを感じてしまう。
これではいつまで経ってもとても安心などできそうにない。
油断した途端ロイドに横から掻っ攫われそうだ。
最早ここまでくるとクレイがどうこうと言うよりも、自分とロイドの戦いでしかないのだろう。
一先ず仕事をさっさと終わらせて、迎えに行けそうなら行った方がいい。
迂闊なクレイには期待するだけ無駄だ。
どうしようもなく好きで手放せないのならそこはもう諦めて、ロイドに隙を見せない――――それに尽きる。
「クレイは私だけのものだ」
アベルが何を企んでいるのかは知らないが、クレイをロイドだけではなくあの男に渡す気も更々ない。
(諸々油断なく対策を立てなければ――――)
こうしてロックウェルは自身の仕事とクレイを思いながら執務室へと戻った。
「ロックウェル様、お帰りなさいませ」
執務室へと入るとロックウェルの姿を見た途端コーネリアが声を掛けてくる。
「ロックウェル様!クレイは大丈夫そうでしたか?」
リーネから事情を聴いたシリィも心配してそう尋ねてくるが、正直口を突いて出るのは冷たい言葉だけだ。
クレイの事情も気持ちも全てわかってはいる。
わかってはいるのだが……今まさにロイドと一緒にいるクレイを思うだけで嫉妬してしまう自分がいるのは仕方がない。
ここでクレイの名を出されて平静でいられないのは許してほしいものだ。
「クレイはロイドと仲良くソレーユに向かった」
「え?まさかの浮気ですか?」
「……違う」
憮然と言い放ったが、コーネリアの方はそうとは受け取らなかったようだ。
「ロックウェル様……なんとお労しい。一先ずそんな薄情な黒魔道士のことなどお忘れください」
そんなコーネリアにロックウェルも少し我に返る。
「…コーネリア。心配をかけてすまない」
「いいえ。ロックウェル様がご心配なさるお優しい気持ちもわからないような黒魔道士など、いっそ反省するまで放置なさって様子を見られてはいかがでしょう?」
そんな言葉にロックウェルは『それができれば苦労はない』とため息を吐いてしまう。
あんなうっかりなクレイを放置など、とてもできそうにない。
「ロックウェル様がお悩みになられるお気持ちもわかりますが、それで相手が折れることもございましょう。きっとクレイはロックウェル様に甘えているのです。時には厳しくなさってみてはいかがです?」
バッサリとそこまで言い切って、コーネリアは笑顔でロックウェルへと提案した。
「一先ず、ソレーユとトルテッティとの魔道士交流会が近づいておりますし、ロックウェル様はそちらへ集中してくださいませ」
「…そうだな」
ロックウェルは短く答えると、気持ちを切り替えて魔道士交流会の詳細を詰め始めた。
***
「ロックウェルと俺狙い?」
その日の夕刻、クレイは使い魔達からの報告を受け眉を顰めた。
自分だけならいくらでも自力で火の粉を払えるが、そこにロックウェルが加えられると心中穏やかにはいられない。
正直自分からロックウェルを奪おうなど許せるものではなかった。
【おやおや。クレイ様がそのように独占欲を露わになさる日が来ようとは…】
【本当に。諦めやすいクレイ様がなんと大人になられて…】
そんな自分の気持ちを勝手に感じ取った眷属達の嬉しそうな声にクレイの頰に朱が上る。
「仕方がないだろう?諦められる所で諦めなくていいと何度も言われて、もうそんな時期はとうの昔に過ぎてしまったんだから…」
【ふふっ…。何も恥ずかしく思う必要などありません。良い傾向だと思いますよ?】
【そうです。クレイ様とロックウェル様のご関係は我々も認めるところ。誰かにそれを壊されるのを黙って見ている必要などございません。どうぞ思うように動いてくださいませ】
「…そうだな。ありがとう」
そうして話し終えた所でロイドがライアードと共に戻ってくる。
「クレイ!待たせたな」
そう言いながらロイドがそっと短剣を差し出した。
柄も鞘も全て黒一色のシンプルな装飾のそれを受け取り、クレイはそっと刀身を確認する。
見事に磨き上げられた鉄剣だ。
「ライアード様に事情を話して了解を得た。持って行くといい」
元々はライアードがロイド用にと誂えてくれたものだったらしいのだが、自分用にはまた作るからと譲ってくれたのだ。
「常に身につけて、もし魔法や眷属が使えないような状況に陥るような事があれば使ってくれ」
あの白魔道士は油断できなさそうだからと言ってくれたロイドにクレイは素直に感謝してそれを受け取った。
「助かる。この礼は必ず」
「ああ。もちろん体で払ってくれてもいいぞ?」
クスッと笑うロイドにクレイもクッと楽しげに笑う。
「お前は本当に抜け目がないな。まあ万が一にでもロックウェルに捨てられたら考えてやろう」
そうしてクレイはあっさりと踵を返して影へと身を沈め、ロックウェルの元へと帰っていった。
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