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85.(side.神田)
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ガツン、
床に背中をしたたかにうちつける。
なにが起こったのか、理解ができなくて。
呆然と元いた場所を見つめれば。
欠けた半身を取り戻したかのように、抱きしめあう2人がいて。
なんだか急に、全部が馬鹿馬鹿しく思えた。
笑いがこみ上げてくる。
3人が、正確には綺羅と冴木が話しているのをぼんやりと眺めた。
そして、その視線は、しっかりと冴木を掴む、あいつの手に収束する。
「……………………はは」
そういうことか、なんて。
思わず溢れた笑いは、かすれていて、きっとぼくにしか届いていないだろうけれど。
何もできない、あいつとぼくの違いなんて、明らかだ。
欲しいものに、手を伸ばせたか、伸ばせなかったか、それだけ。
ぼくは、手を伸ばせなかった。
手を、離してしまった。
それだけ。
ぼくが、あのとき、手を伸ばしていれば。
今、何か変わっていたのかな。
なんて、今考えたって、どうしようもないことを考える。
今何を思おうが、全ては妄想に過ぎなくて。
まさに、後悔後の祭りってやつだ。
ふと気がつけば、近くに鈍く光る銀色があって。
それに、そっと手を伸ばした。
会話に熱中している三人は、全くこちらの動きに気付いていない。
もう一度、あいつを刺すのは簡単で。
なんなら、冴木や綺羅をさすのだって、そう難しくはないだろう。
けれど、もう、わかっていた。
きっと、ぼくのこの醜い想いは、どうしたって、晴れない。
どうしたって、消えない。
どうしたって、変わらない。
もう、ダメなんだ。
ちらりと、外につながるドアを見つめる。
そこには、震えながら立つ、あの利用した女と。
顔面蒼白で立ち尽くす、心優しい管理人がいた。
きっと、良心の呵責に耐えられなくなった彼女は、冴木に協力したんだろう。
そうして、2人の話をきいて、この状況をみて、心優しい彼女は、自分を責めているのかもしれない。
ーーーー彼女たちが、いや、きっと、みんなが持っている、良心。
ぼくはいつ、それを失ったんだろう。
自分の行動の愚かさ、残忍さ、矛盾。
全てに気がついても、ぼくは反省なんて、していない。
後悔だって、ちっともしていない。
それどころか。
"まだまだだ"と、"もっと"と。
どこまでも、いつまでも、先を求めている。
そんな自分に、もう疲れてしまった。
そうなれば、終わらないこの想いを、終わらせる方法なんて、1つしかない。
ふと視線を感じて、顔を上げれば、あいつがこっちを見ていて。
その目が、不安げに揺れ動いた。
やっぱり、勘だけはいいらしい。
…………ほんとに、気に入らないやつ。
ゆるりと、いつも通りの笑顔を浮かべる。
狙いは、外さない。
この無駄に積み上げた知識で、どこを刺せばいいかなんて、わかりきっている。
ぼくは迷いなく、手に持っているそれを、ふりぬいた。
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