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3.Behind the book(リクエスト)
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来週模試があると聞いて、成績に関わる訳では無いが、ハルに負けるのも癪だったので勉強をすることにした。
放課後、勉強するために図書室へ行くと、何人かの生徒が読書や勉強をしていた。利用者はさほど多くないから、静かに勉強出来そうだ。
周りの大人しそうな生徒は皆、俺の姿を見ると怯えるような表情を見せた。無理もないとは思うが、毎回少し罪悪感を覚える。
俺が座って勉強を始めると、周りは驚きつつも段々と気にせず各々の読書や勉強に専念するようになった。
座っている場所から時計が見えなかったのでスマートフォンで時間を確認すると、ハルからのメッセージが50件ほど来ている。
『勇也、HR終わった?』
『どこにいるの』
『帰った?でもまだ学校にいるよね』
『スマホ学校に忘れたの?』
『一緒に帰ろう』
『探しに行くね』
よく一人でこんなにメッセージを送れるなと若干引きつつ、図書室にいると伝えることを忘れていたのを思い出す。
『図書室 勉強 先に帰れ』
と送ると、すぐに既読がついた。そして5分と経たないうちに図書室の扉が開く。
「勇也、一緒に帰ろう」
「静かにしろよ…勉強してるから先に帰っていいって」
周りの視線はハルに集まっていた。何もしていなくても目立つのに、俺なんかに学校で話しかけたら余計目立ってしまう。
ハルは、今度は小声で耳元に話しかけてくる。
「じゃあ、俺もここで本読んでるから終わったら一緒に帰ろう」
「…勝手にしろ」
ハルは本をどこからか持ってくると、俺の隣に座って読書を始めた。隣にいると距離が近くて集中できないので、本当は正面に座ってほしかったが言うのも面倒だ。
勉強の合間に隣を見ると、静かに読書をしているハルの横顔が見える。しかも読んでいるのは洋書のようで、書いてある文字は全て英語だ。読書をしているだけでここまで絵になってしまうのも珍しい。
思わず見惚れていると、その視線に気づいたハルがこちらを見て首を傾げる。
「ん?どうかした?」
ふっと微笑まれて目を背ける。ここまで心臓に悪い笑顔があってたまるか。ハルは確かにルックスはとても良かったが、男相手に不整脈が起こるなんてやはりおかしい。自分でも顔が熱を帯びているのが分かる。
「顔真っ赤…」
ハルは緩く微笑んだまま、俺の髪を耳にかけた。その手を反射的に払ってノートに目を移す。
「やめろよ…見られたら変に思われる」
「いいよ俺は、別に」
「俺が良くないんだよ」
「でも近くには誰も座ってないし、もう何人か帰ったよ」
「そういうことじゃねえ…!」
つい大きめの声を出してしまいハッとする。何人かの目がこちらに向けられたのが分かって黙ったままハルを睨みつけた。
「でもなんでずっとこっち見てたの?」
「見てねえし」
「嘘。見てたよ」
「…何の本かと思って。その、読んでるやつ」
「これ?」
ハルが読んでいた途中のところに指を挟んで表紙を俺に見せる。『Hamlet』と書かれていた。
「はむれっと…?」
「そう。シェイクスピアのやつ。知らない?」
「ああ、シェイクスピアは知ってるけど…」
「読んでみる?はい」
指を挟んでいたページを開いて見せられたのでのぞき込むが、全く意味がわからない。
「…全部英語だからわかんねえ」
「そうだったね、読んであげようか」
「いいって別に…」
本から視線を逸らして椅子に座り直そうとすると、ハルが手を引いて顔を近づけてきた。
「っ…!馬鹿、やめろよ」
「いいじゃん、誰も見てないよ」
「そんなの分からないだろ」
「じゃあ、これならいい?」
持っていた本を開いてお互いの口元を隠したかと思うと、ハルの唇が俺の唇に軽く触れる。
顔がどんどん熱を増して、腕で口元を抑えた。
「な、にして…!」
そんな俺を見て、ハルは人差し指を自身の唇に当てた。声は出さずに、口の形だけで「しずかに」と伝えてくる。
口角をあげない、少し真面目なハルの表情は、俺の思考を止めて視線を奪うには充分すぎた。
「こうすれば、誰にも見えないよ」
ハルの吐息がかかった耳が熱い。静止してしまった俺に、またハルは唇を重ねる。『ハムレット』の後ろに隠れて、僅かに響くリップ音を気にしながら触れるだけのキスを繰り返す。
耳にかかっていた髪がはらりと落ちてハルの頬を撫でると、くすぐったそうにはにかんだ。
そのとき、別の机で本を読んでいた生徒が立ち上がったのかガタッという物音がした。
俺達はすぐに離れて元の位置に戻る。
さっきまでハルの唇が触れていた自分の口を手で押さえながら、熱い顔を冷ますように後ろの窓を開けた。ハルは机に伏して小刻みに肩を震わせる。そして顔をこちらに向けて目を細めた。
「バレたかな?結構スリルあるね」
「っふざけんな…どうすんだよ」
先程立ち上がった生徒は本を戻して、また新しい本を探して歩き回っているようだった。
「きっとこっちの方には来ないよ…だからもう一度」
風に舞ったカーテンがふわりと浮いて、ハルがそれをベールのように手に取り俺達を包む。
日が傾いて空が赤く色づく。窓から吹き込んだ風は、夕焼けに染まった顔の火照りを冷ましてはくれない。
夕陽の差し込むカーテンに、二人の秘密の影が浮かんでいた。
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リクエスト:図書室で本で口元
を隠してキス より
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