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「…………」
「…………」
気まずい。
御崎さんの車に乗るまでは良かった。
でも予想通りというか見かけ通りというか、現れた高級車の助手席に乗せられた緊張と、さっきのキスを意識しないように意識しすぎて…。
つまり今、オレはかなりギクシャクしてる。
「酔ったか?」
「えっ!なに!?」
「……。だから車に酔ったのか聞いてんだ。さっきから静かで不気味なんだよ」
「…………。酔ってない」
「そうか」
そんな短いやり取りの後、また沈黙が続いてる。
これはどうにかしなきゃ。
そう言えばまだお礼も言ってなかっ…………お礼!?
「どうしよ……」
「あ?」
「な、何でもない!」
つい口に出た迷いを否定すれば奇妙なものでも見るような眼差しを横目に受け、気まずさに拍車をかけながら頭の中を整理した。
彼がどう言おうと助けてもらった事に変わりない。
だったらお礼するのは当然だ。
でもどうしたら……。
「そろそろ家の近くだろ。どの辺り──」
「コ、コーヒーでも飲んでけば…!」
「「…………」」
まずい。見事に被った。
「さっきから一体何なんだお前は!?俺をイラつかせるのがそんなに楽しいか!?」
「っ違うよ!今回はたまたまタイミングが被っただけで!」
「ああもういい!さっさとどこに車を止めるか言え!」
「……次の信号を左に曲がって、一軒目のコンビニ…」
沈黙から脱したのは良かったけど今度は言い合いになり彼は明らかにピリピリした雰囲気へと変貌を遂げた。
なんで上手くいかないんだろう…。
と言うかなんでオレ、こんなに余裕ないんだろ…。
ただ"ありがとう"って伝えたいだけなのに……。
「……今度は何だ」
「へ…?」
「落ち込みがあからさま過ぎる。言いたいことがあるんだろう、言えよ」
コンビニの駐車場に入り車を止めた御崎さんはそう言って眉間にシワを寄せ、睨みを利かせたままオレを真っ直ぐ見据えた。
きっと心の中では"面倒くさい"って思ってるんだと思う。
それでも言いたいことがあるオレの雰囲気を察してくれたのが嬉しくてつい顔が綻んでしまう。
「……ありがとう」
「は…?」
「店での事だよ。結果的に助ける形になっただけかもしれないけど、それでもオレはあなたに助けてもらった。だから"何かお礼を"って思ったんだけどコーヒーくらいしか思いつかなくて…」
「……。これから寝ようって人間にコーヒーってのはどうかと思うが」
「あ……。そう、だよね。ごめん…」
こんなに言動が裏目に出た試しはない。
オレは本当にどうしちゃったんだろう。
レアケースにかなり焦ったオレは彼から目線を逸らし次の言葉を探った。
すると、拷問みたいにオレをじっと見つめて何か考え事をしていた御崎さんはすっと片手を出してきた。
「…………お金?」
「なんでだよ…。お前のケータイを貸せ。借りを返して欲しい時は連絡する」
「う、うん…」
時間が時間だし、今からホテルに誘うわけにもいかない。
そう困り果てていたオレに彼の申し出は予想外なものだった。
だって連絡先を交換するということは、これまでとは関係が変わる。
今までは行きずりの相手。
そしてこれからは……?
「もう家に着いたかな…。大体、あの人どこに住んでるんだろう…?」
家に入ったオレが改めてお礼を言うべきか悩んでる内に、手の中のケータイはじわじわと温まっていった。
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