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一ヶ月後
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あれから一ヶ月後経った。
現在、とあるクラスでは、もはや日常となった光景が繰り返されている。
「うえええおああああ!うぶわああぁぁぁ!んぐ!うぐっうぐぼっ!公彦おおお!総司がぁぁ!総司がぁぁ!」
凄まじい泣き声をあげ、使用人の腰に抱きついているのは宗之助である。涎や涙、鼻水を垂れ流して汚して泣く宗之助の頭には、見事なタンコブが出来てきた。その後ろでは、先程まで宗之助と組手をしていた、彼の友人である総司がケラケラと笑っている。
自称(宗之助)ライバルである総司と宗之助は、仲が良いのか悪いのか分からない。コンビネーションは抜群で、難解な課題を易々とクリアし、総司は天才肌の宗之助を上手くフォローしたりするのに、何故か宗之助をからかう事が多い。宗之助も、そんな総司に突っ掛かり返り討ちにあっている。
特に組手の時などは総司の独壇場で、宗之助は彼に馬鹿にされて、毎回号泣していた。それを慰める公彦は、懐からハンカチを出すと、ドロドロに汚れた宗之助の美しい顔を拭いた。
「宗之助様、立派で御座いましたよ。見事な影操りでした」
「えぐっうぶっぼんどう?」
「はい、総司様の一撃をあのような搦め手で避けるなど、私は想像もしません。宗之助様の素晴らしさに感激致します」
「公彦おおお!!」
「さあ、手当てしたら訓練に戻りましょうね?はい、チーン」
「チーン」
公彦が差し出したハンカチで思いっきり鼻をかんだ宗之助は、頭を公彦に差し出して手当てしてもらう。傍らに置いていた救急箱から薬を取り出し、主のタンコブに塗った公彦は、小さな唇に微笑みを浮かべて主を送り出す。
「勝負だぁぁぁ総司!ボクチンは今日こそ勝ぁぁぁつ!」
「煩い」
「うぐぼっ!?」
明後日の方向を向いて退屈そうにしていた総司に、両手をワキワキさせながら襲い掛かる宗之助。だが、総司の重い一撃を鳩尾に喰らった宗之助は、見事な弧を描いて愉快じゃない空中散歩を強制的に体験させられていた。
「うぎゃあああん公彦おおお!」
秋晴れに宗之助の泣き声が響く。
そんなこんなで、愉快な訓練の休み時間。修練場である屋根のない土俵の上では、疲れはてた生徒達がむさ苦しく横たわっていた。退魔師を目指している彼等はやはり恰幅がよく、その殆どが鎧のような筋肉を纏った重量級である。中には信仰によるものか、スキンヘッドにしていたりして、むさ苦しさが半端ない。
その中で比較的華奢な者達がいる。まだ十代だと思われる少年達は、妖怪の子供達である。
まだ幼い彼等だが、一回り大きな人間達と対等に渡り合い、一歩も引かずに組手を行っていた。最初は人間と妖怪の違いに溝があった彼等だが、川蝉の過酷な訓練は力を合わせないと洒落じゃなく腕の一本くらい無くす。今では、過酷な訓練を通して彼等の絆はガッチリと強くなっていた。
また、その絆にはとある人々が貢献していた。
「皆様方、ご苦労様です」
「さあ、飲料や果物を用意しておりまする」
「タオルはいかがですか」
疲れはてた生徒の間を歩き、ドリンクや冷しタオルを配っている人物達。濃緑色の揃いの服を着ている彼等は、妖怪の子供達が実家から連れてきた使用人達だ。
彼等は主のみならず、学友である人間達にも分け隔てなく何かしらと世話をする。怪我をすれば治療の手助けをし、服が汚れれば洗い、新しい服を用意する。主からの命令があれば、部屋掃除もする。
一学期だけの間で、放置された下着に茸が生える、ゴキブリが走り回るような混沌の世界に成り果てていた寮。そんな男所帯の混沌に現れ、混沌を一掃した彼等を人間の生徒達は崇めたてまった。
しかも、彼等は一様に見目麗しい者が多い。そんな彼等がアレコレ世話をしてくれたり、心配してくれたりするのだ。そりゃ、生徒の中にはファンクラブを作る者もいる。ちなみに、隠された地域では昔の日本の価値観が息づき、陰間や稚児の風習が残っている。その為、男でそのような話しになることも多い。
休憩中、とある生徒のグループが話し合っていた。
「なあ、使用人さん達の中で誰が好き?」
とある生徒の言葉に周りが反応する。だらしなく横たわっていた生徒達が、彼の周りに四つん這いで集まる。
「俺は良美ちゃんかな?兎耳は正義だろ」
ふんわり美少女風の兎魔の少年を押す生徒に、ウンウンと頷く生徒達。
「俺は明さんかな?あの目で見下されると、股間がキュンとなる」
「あー分かる分かる。俺、明さんなら血を吸われても良いかも」
「テメーの血なんか吸わねーよ」
「うるせぇ!吸ってくれるよ!」
からかわれた生徒とからかった生徒が揉める中、次々と使用人達の名前が挙げられる。そんな中、一人の生徒がオズオズと提案した。
「なあ、公彦さんは?」
その言葉が響いた瞬間、一瞬だけ静まる。カサカサと生徒達が更に集まり、誰にも聞かれないように声を小さくする。
「じ、実は俺も良いかなって」
「え?公彦さんてあのバカボンの使用人だろ?正直言って顔面レベルは一番・・・・・・」
「ばっか!お前は馬鹿か、顔じゃねーんだよキミタンの魅力は!」
「キミタンってお前・・・・・・」
「まあ、気持ちは分からんでもない」
「んだんだ。あの人は隙があるっていうか、親しみがあるっていうか。他の使用人さん達は、完璧過ぎて気後れして欲情できないけど、公彦さんは一番まあ、お世話になっているとだけ」
「ちょっ!お前ゲス!」
「しかし、納得はできる。憧れるのと、付き合いたいのは別物なんだよなぁ」
「美術品では抜けないけど、グラドルでは抜けるみたいな?」
「他の使用人さん達は、守るとかおこがましい位の猛者だけど、公彦さんは守ってあげたい」
「ああ、怪我した俺を公彦さんが泣きながら手当てしてくれるんだよ」
「小さな口で首筋をカプカプされたらヤバイ」
「ハアハア、キミタン、ハアハア」
「ええー?」
「お前、良美ちゃんばかりで、公彦さんに世話して貰ったことないだろ?一回会話してみ?スッゲー可愛いらしい人だから」
「マジで?なんか興味出てきた。明日、話し掛けてみよ」
「ああ、それなら先生にバレないようにしろよ?」
「何で?」
「いや、先生の知り合いらしくて、ちょっかい掛けたら恐ろしい事になんだよ。ほら、居ただろ?なんか粘着質な吸血鬼嫌いの痛い奴」
「ああ、先生と俺は同じだって、なんか「自分は先生に気に入られてる」って言ってた痛い奴?」
「そう、ソイツ最近大人しいだろ?公彦さんに纏わりついて先生に絞められたんだと」
「おおう・・・・・・」
「公彦さんが優しいからって調子に乗るから」
「だから、公彦さんと触れ合うならば礼儀正しくな」
「公彦さんはメンタル豆腐なところあるからな」
「そうそう、グロ耐性が異様に少ないしな」
「この前手当てしてもらったら、涙目でメチャクチャ心配されながら労ってくれた。正直勃った」
「お前・・・・・・」
「許してやれ。アイツその後、明さんに交代されてた」
「キツいわー、公彦さんの後の明さんキツいわー」
「あの壮絶な美貌に、テメーの下半身見られたのかよ」
「死にたい・・・・・・」
「ヤメロ!こいつのライフはゼロよ!」
「お前ら楽しそうだな」
キャッキャッと楽しそうに会話する生徒達。そんな彼等の一人の頭に足が乗せられた。固まる空気。足を乗せられた生徒は、ガクブルしながら仲間たちを見るが、彼等はその生徒の頭上を見て硬直していた。
「そんなに元気なら、もうちょっと追加訓練するか?いやあ、有能な生徒を持つと忙しくて大変だ。困った困った。嬉しい悲鳴という奴だな」
懐からタバコケースを取りだし、タバコを一本取りだしてくわえた吉正は、口の端をニイイと吊り上げた。その後、ごく一部の生徒が嬉しくない悲鳴をあげた。
汚れた手を拭きながら帰ってきた吉正。歩いていると、遠くで宗之助を慰めていた公彦と目があった。しゃがみながら主の頭を撫でていた公彦は、ふと頭を上げると、吉正に会釈しながら微笑んだ。
その笑顔を見た吉正は右眉を上げると、彼に背を向けて生徒達に授業の再開を告げた。
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