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「……こっちか」
まだ昼間なのにここまで誰にも会わないなんて珍しい。
何か罠にでもかかってるんじゃないかとすら思う。
「そんな必要、ないもんな」
俺がアランの言いなりになってる以上、彼が何かするとは考えられない。
時々立ち止まって辺りを確認しても気配すら感じないこの屋敷の中は、日が差し込んだ廊下ですら不気味さを感じる。
それに加え、声を探っていくつかの階段と廊下を歩いた俺が辿り着いたのは地下へ続く階段だった。
「うそ……。地下は確か牢屋…だったよな…?」
以前アランからそう聞いた覚えがある。
誰か捕まってるのか?
だとしても3階にある俺がいた部屋まで歌声が聴こえてくるのは明らかにおかしい。
さっきまで発作で悲鳴を上げていた心臓が今度は緊張でどくどく高鳴る。
柔らかく包み込むようなメロディーの演奏者はすぐそこだ。
汗が滲む掌で拳を作り、俺は怖気付いた心を無視して階段を一歩ずつ慎重に降りた。
「あの……、誰かいますか?」
両サイドに並ぶ鉄格子の廊下の先へ声をかけたが返事はない。
どうやら見張りはいないらしい。
冷たい石の床や壁に声が反響して返ってくるが、歌声は止まず奏でられている。
俺は一つずつ鉄格子の中を確認したがどこもかしこもが空の状態で、この歌声の主なんて本当はいなくて、俺の幻聴なんじゃないかとさえ思い始めた時、その人物の姿が突然視界に飛び込んだ。
「っ!?…あの…っ」
白いベッドに仰向けで寝かされた女の人は俺の声にはせず、相変わらず鼻歌を続けている。
だがその開かれない瞼や微動だにしない体から、彼女が生きているのか疑いたくなる程だ。
「────呼ばれたか」
「!!アラン……」
その声に振り向くと彼は音もなく俺のすぐ傍まで来ていた。
彼が怒っている様子は見受けられなかったが、勝手に部屋を出た俺はほんの少し後ろめたさを感じつつ視線を女の人に戻した。
「歌が……。この人が歌ってるはずなのに、声をかけても動かないんだ」
「眠っているからな。あの日からずっと……彼女は俺達に従う事を拒み、自らの時を止めて眠りについた。歌に誘われたか。それは恐らく貴様にしか聴こえぬものだろう」
「俺にしか……?あんたには聴こえないのか?」
「ああ。俺は白羅ではないからな」
彼の答えに心臓がどきりと一際大きな音を立てる。
白羅じゃないから聴こえない…?
それはつまり、そんな歌を奏でているこの人は一体……。
「彼女の名はクローディア。白羅最後の女の魔女にして、貴様の母親だ」
俺は何かに操られているのだろうか。
自分達じゃどうしようもない程とてつもなく大きな何かに。
俺はこの瞬間ほど、運命というもの強大な力を身近に感じたことはなかった。
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