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優しい束の間。
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「…………」
ぼんやりと天井を見上げるその瞳は俺と同じ色だ。
彼女は一体どのくらいの年月を眠り続けていたんだろう。
そしてなぜ今、目覚めたのか。
体が硬直して動かない俺は、"どうか俺を見ないでくれ"と強く願い息を殺した。
だがその願いはあっさり裏切られる。
「……あなたは……?」
「っ──!!」
ゆっくりとこちらに視線を向けた彼女は掠れた声で俺に何かを問う。
その短すぎる言葉で何を尋ねたいのか。
俺の存在?ここにいる理由?それとも……俺が生きてる訳…?
どう答えればいいのか分からない。
「っ……」
怯える脚が一歩ずつ彼女から離れ、背中が鉄格子にぶつかると逃げる為に扉を何度も開けようと揺らした。
アランが鍵をかけていた事なんかすっかり頭から抜けていた。
「あ、待っ────きゃっ!」
「っ!?…………」
ベッドに寝ていた彼女は慌てたせいか俺に手を伸ばしたままの体勢で盛大に転び、俺は違った意味で体が凍りつく。
なんと言うか…………まるで自分を見ているようだ。
「……大丈夫…ですか…?」
突っ伏したままぴくりとも動かない彼女はまた眠ってしまったんだろうか。
辛うじて声をかけ、恐る恐る彼女を覗き込むと伸びていた手が突然俺の足を掴む。
「捕まえたー。ふふっ」
「っ!?」
怖過ぎる。怖過ぎるあまり尻餅を着いた俺に這い上がってくる手なんかはゾンビか何かのようだ。
「あなた……スバルね?」
「!!なん…で…っ」
「だって、あなたの瞳は私とそっくり。それに顔付きはノアールに良く似てるから」
「っ!…ごめん、なさい」
「え?どうして謝るの?やだっ、ちょっと泣かないでよ…!私何か酷い事言った?」
彼女は取り乱し、おろおろしながら俺の様子を伺う。
いい歳して涙を流す俺はみっともなくて最低な息子だ。
だけど今まで何も知らずに平凡にのうのうと生きてきた俺は申し訳ない想いで一杯で、後悔と悔しさを持て余していた。
彼女の苦しく辛い日々を思うと涙が止まらない。
「っ!」
「傍にいてあげられなくてごめんね。よしよし、良い子だから泣かないで」
考えた末の行動だったんだと思う。
彼女は細い腕で俺を抱きしめ、子供をあやすように何度も俺の頭を撫でた。
これじゃまるで、俺が迷子の幼い子供みたいだ。
……でも実際にそうなのかもしれない。
心のどこかで空いていた穴を彼女の温もりがそっと蓋してくれる。そんな感じの優しさだった。
「……違う、よ。謝るのは、俺の方なんだ。今までずっと…何も知らずに生きてきたから…、ごめんなさい…。俺が産まれたせいで、あなたは…」
俺の存在が彼女を苦しめた。
そのどうしようもない罪悪感で押し潰されそうになりながら再び謝ると、なぜか彼女はぱっと明るい笑顔を見せる。
「それは違うわ、誤解してる。あなたは私達に望まれて生まれてきたのよ?」
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