アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
・
-
「望まれ…て?」
「ええ。あなたは私とノアールの"希望"なの」
言われている事の意味が分からず、俺は丸い目で何度も瞬いた。
彼女はそんな俺を嬉しそうに見つめてまた髪を撫でる。
「白羅の生き残りとして私はここへ連れて来られたの。最初はもちろん恨んだわ。でも、恨みからは憎しみや増悪しか生まれない。だから私は白羅の魔女として、黒梓の王であるノアールに"他人を愛する事"を教えた」
「愛する事……」
「そう。慈しみ、労り、与える喜び。最初は"馬鹿馬鹿しい"って話も聞いてくれなかったけど、徐々に理解を示してくれた。それは私達が互いに惹かれるきっかけでもあったの。そしてあなたを授かった」
一つ一つ大切な想い出を紐解く彼女は穏やかで幸せそうな表情をしていた。
それだけで俺の重苦しかった胸は随分と楽になる。
彼女の想い出は悲しみだけじゃなかった。
ちゃんと想い合う人がいて、幸せな時もあったんだ。
俺がブラッドと過ごした日々の様に……。
「……スバル。今度はあなたの話を聞かせて?ここが黒梓の屋敷なら、あなたの置かれた状況はかなり不味いわ」
「……うん。分かってる。俺、多分もうすぐ死ぬから……最後にあなたと逢えて良かった」
「!どういう事?どうしてあなたが死ぬの!?」
「俺の心臓……もう保たないと思う。毎日発作があるから…」
「!…………だったら。私達がやるべき事をしましょう?」
「え?」
「あなたのお父様は…ノアールは……自分の息子の手で殺された。私にうつつを抜かし黒梓としてのプライドを失ったという一方的な理屈でね」
「!!アランが……?でも彼は…っ」
そんなに残忍な人格だったか?
腹違いの弟である俺を、裏があるにしろ一応は気にかけている。
それに俺が発作を起こすと必ず姿を見せ、治まるまで部屋から出て行かない。
前に一度だけ、発作中に伸ばされた手を払ったことがあった。
それ以来彼は発作で苦しんでいる俺をただ見ているだけとなったが、もしかすると背中を擦ろうとしていただけなのかもしれないと後で気付いた。
それは彼の視線だ。
嘲笑うものでもなく忌々しく思うものでもなく、ただ見つめているというより見守っているという印象を受けた。
これは彼なりの優しさだったんだろう。
そして彼女と接する機会も与えてくれた。
そんな彼が本当にそんな事をしたのか疑問に思う。
「でもそれは恐らく、実権を握りたかった母親の差し金だと思うの。アランは次期王として約束された立場だったけど、彼はまだたった10歳だった。だから実際には母親が力を手にできる。そして彼もその事には気付いていたわ。だからそうなる前に私と生まれたばかりのあなたを逃してくれたの」
「でも……、だとしたらアランは利用されただけで悪くない」
「それは違うわ。親殺しは魔女にとって最大の罪。それを実行したアランとその母親は自らの命で償う義務があるの。あなたが彼を知ってるという事は、彼はまだ生きているのよね?母親は?」
「……分からない。聞いた事ないから…。あの…さ、もしかして俺達がするべき事って……」
彼女は深く頷いて答えを返す。
つまり俺は……実の兄を手にかけなければならない。
『っ!!』
話が途切れて辺りが静まり返った時、突然落雷の様な音が響くと共に視界を激しく揺さぶる程の振動が伝わった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
102 / 118