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いいひと、わるいひと 弐
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「なに、お前日本人じゃなかったの?
なんでそれを早く言わねーんだよ、もはや名前を聞く以前の問題だ。
これでぼっくんに名前言わないで済むわ、サンキュな」
思わず、ポカンとしてしまった。
なんで、なんではたいたのに、そう優しくしてくれるのか、わからなかった。
__僕の故郷なんかじゃ、こんな扱いしてもらったことないのに。
15歳まで、親の事情で、中国各地を転々としていた。
すぐに引っ越すものだから、小学生のころは作っていた友達も、別れるのが嫌で作らなくなった。
それでも、お金だけはあったものだから、よくゲームを購入しては遊び呆けた。
それがたった一つの癒しだった。
しかし、いつかそんな楽しい時間も長くは続かなかった。
ある日、どこから情報を仕入れたのか、クラスの中のカースト上位にいる数名が、僕の机を取り囲んできた。
口々に、金について、欲しいだの、ずるいだの、寄こせだの、言い寄ってきた。
__怖かった。
だから無視したら、殴られて、殴られて、殴られて。
顔が、きっとぐちゃぐちゃになってたんだと思う。
周りがうるさくなってたのを注意しに来た先生が、僕の姿を見て「あ__」って言った。
先生は茫然と突っ立ってた。
僕を助けてくれなかった。
他の先生たちが来て、あいつらを抑え込んだ。
__怖かった。
泣きたかったけど、痛すぎて、泣けなかった。
涙のところも裂けてたらしくって、ぐちゃぐちゃで、よだれか鼻水か汗かわからない液体が、流れてた。
紅い赤い、朱い血が、目を埋め尽くしていって、もう、何も見えなくなってしまった。
あとはもう、思い出したくもないし、思い出せない。
けれど、そんな、扱い。
「あ、う、うん__」
どうにか、日本語を出すことができた。
「・・・ありがとう、ございました・・・。
・・・助かりました。
命明は、中国人、なんです・・・」
隣で宗ちゃんが説明する。
中国人とは言っても、ここにきてもう10年もたつから、日本語は結構できるんだけどね。
「あ、の、赤汰さんたちに、お、お願いがあるん、です、けど__。
いい、です、か?」
__嗚呼、もう何やってんのさ。
もっときれいに話すための10年間だったのにい!
これじゃ水の泡・・・。
言ってから、後悔する。
先ほどまで自分たちを拘束していた__というか、今も拘束している人たちなのだ。
こんなことをいったら、もしかして怒られて、殺されてしまうかもしれない。
__日本のヤクザとか、暴力団って、怖いのに!!
何言ってんだろ、ほんとに、もう!
「先にさぁ、縄解かせろよ。
溜まってんだよ__」
そんな、しどろもどろな命明の思考を打ち抜いたのは、白斗の冷たい声だった。
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