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17話「折った」
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「あれ、これ新しい折り方?めっちゃ飛ぶね」
ヒュッと。
先生がテーブルから持ち上げたその紙飛行機を宙に手放すと、それはサラサラと進んで、やがてフラフラと行き先を見失って揺らぎ始め、最終的には壁にガツンと当たってから床に落ちた。
「あ、ごめん。さきっぽ潰れたかも」
「いいですよ。折り直しますから」
もう何年もこんな感じだ。
「愛くんこの折り方自分で考えたの?」
壁のところに落ちているそれを拾い上げながら、先生は興味深そうに見つつ聞いて来た。
「いえ、友達に教わりました」
毎回先生が持ってきてくれる色とりどりの折り紙。
それをカーペットの上に座って、テーブルの上で折り続ける。そうしているうちに何時も、大体。テーブルは俺の折った色々な形の、色々な色をしたものたちで埋め尽くされる。
診察。
一応はそれ。でもいつもしているのは世間話と俺の話。
ここは、何年も通っている精神科の診察室。診察室と言っても置いてあるのはデカいソファとガラス張りのテーブルとよく分からないぬいぐるみとか人形とか本とかおもちゃ。
で、目の前でさっきから紙飛行機の虜になっているのは俺の主治医の上岡政(かみおかせい)先生。
きっちり眼鏡をかけた、一見して真面目で堅そうな先生、なんだけど。これが真逆で。ちゃらんぽらんで診察する気があるのかないのかよくわからない人。
「友達?すげー紙飛行機やりこんでそうだね。これ折り方すごいよ」
すごい紙飛行機見てる。
「この間仲良くなったばっかの奴が教えてくれて・・」
「お?すごいね。学校復帰して間もないのに、どんどん友達できるじゃん」
「や、なんか・・ソイツすごい話しやすかったんです」
上岡先生が紙飛行機を持ったままソファに帰って来て腰掛ける。俺はカーペットに座ったまま、先生を見上げた。
「へえ。高校3年生で紙飛行機の達人で話しやすいの。面白そうな子」
「面白いっすよー。めっちゃよく笑うし。人懐っこくて・・あ、でもめっちゃでかいんですよ。185もある」
「え?でか・・愛くんだってデカいのに・・なに。2人並んでどうしたいの。俺と比べたらどっちも巨人なんだけど」
「あはははは!先生小さいですよねー」
ちなみに上岡先生は170。日本男子の平均身長・・だったかな。
折り終わった鶴をテーブルの端において、また違う折り紙を手に取った。さっきの鶴は青色。今度のは薄い水色だ。
「じゃー、その子のおかげかな」
「え?」
「前よりすごい顔色いいし。ここにいても愛くんめっちゃ笑ってるよ」
「え・・え?」
「そうとう楽しんだろうな、その子といるの」
ニッコリ。
先生が笑った。
「・・あ、でも・・うん。宮崎って、言うんですけど・・アイツと次何して遊ぼうかなーとか考えるの楽しい」
「ほうほう。いいじゃん。良い友達できたね」
「はい・・あ、・・で、でも」
「うん?」
「友達って・・だけ」
先生を見ていたそれを、手元の折り紙に落とす。視線が下がると、先生の膝が折り紙の向こうに見えるくらいだった。
ガラスのテーブルに反射した色々なものも、同時に目の下の方にチラチラと映って見えた。
「愛くん。俺今それ聞いてないし、別に答えなくていいんだよ。そうやって答えて、自分で答えつくって、自分を追いつめなくていいんだよ」
「・・はい」
「重たく考え過ぎ」
「重たい、ことじゃないですか・・」
手に持っていた折り紙が、ギチリと潰れて歪んで、そして少し破けてしまった。
ああ、俺が、手に力を入れたせいか。
「その子と何して遊んだの?」
「・・・」
「教えてほしいな。その子の話は、してると楽しいんだろ?」
「・・うん」
「じゃあ楽しいこと話そう」
「・・はい」
顔をあげた。
いつもどおりの笑顔を向けてくれている先生がいた。
(あと…1年)
ただその事実だけが重い。
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