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36話「俯いた」
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プシュ、とドアが開いて。
数人、ひとが降りて来る。
女の人の声がして、それから足音が続いて。車掌さんらしき人が出発の号令をかける。
俺は何が怖いのか、俯いたままベンチに座っていた。
「・・・」
何もかもが、心臓の音にかき消されそうだ。
「宮崎」
「ッ!!」
ビクッと肩が揺れる。すぐそこで聞こえた声。
顔をあげる。視線を、その足元から上へ、上へ。
「ごめん、待たせた」
ニコニコと笑っている千田が、そこに経っていた。
「ぁ、・・・」
ああ、可愛いなぁ。
可愛いと言うか、綺麗と言うか、そういう感じ。
整った顔が柔らかく笑って、こっちを見てる。
俺は一瞬声を詰まらせてから、立上がる。
「千田!いや、待ってない待ってない」
「嘘付け、けっこう待たせただろ。ごめんな」
目の前まで来た。
「ぁ・・・」
「で、何でこの駅?こっからどっか行く?」
「あ、あの、」
「ん?」
見上げて来る相手。
何も知らない顔で、純粋な目で。
ニコニコ笑ってくれる。
何だか、友情を裏切る様な感覚がして。
泣きたくなって来た。
「宮崎?」
ああでも、好きなんだよなあ。
このまま、何も言わずにいるのも、嘘ついてる様な感じがするし。
怖い。
怖いけど、でも、
「宮崎、お前大丈夫?」
トン、と肩に手が乗った。
「っ・・」
何故だか少し振り払いたくなった。
それでも触ってもらえて嬉しいとか思って。余計にグルグルグルグルと苦しくなって緊張して来る。
「千田、」
「?」
キョトンとした顔。
ああ、さっきの突然の電話も、そんな顔で聞いてたんだろうな。
ああ、息が、
息ができない。
「千田、ごめん・・」
「え?」
「ちょっと、話聞いて」
苦しい。
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